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お知らせ

2023/07/19

【柏センター】柏の葉高校見学会レポートー人間拡張研究と最先端技術とSociety5.0ー

県立柏の葉高校情報理数科1年生40人が2023年6月29日、授業の一環で最先端の情報技術に触れ、職業観を養うことを目的に柏センターを来訪。
産総研や人間拡張研究について事前学習をしてきた生徒達は、3グループに分かれてラボの見学と研究者とのディスカッションに臨みました。
 

産総研柏センターで行われている最先端技術の研究を知る


スマートワークIoH研究チーム

高校生の視線の先にあるものは・・・
全方位型VR装置のサービスフィールドシミュレーターの前で、大隈隆史研究チーム長が装置について説明をしているところでした。

サービスフィールドシミュレーターの説明を聞く高校生


360度のバーチャル空間に身体ごと入り、人の行動を測りデータ化して、環境が人の行動に与える影響を計測することができます。

サービスフィールドシミュレーターを体験する高校生


モニターに映し出されているのは、柏の葉高校の生徒が通学で利用している柏の葉キャンパス駅前の風景。
実際に装置の中を歩く体験をしました。
 
スマートセンシング研究チーム・ウェルビーイングデバイス研究チーム

所内でクリーンルーム前室と呼ばれる実験室でプレゼンを行ったのは、駒﨑友亮さん(スマートセンシング研究チーム)鈴木宗泰さん(ウェルビーイングデバイス研究チーム)加納伸也さん(ウェルビーイングデバイス研究チーム)の3名です。

柔らかいセンサを作り出す研究をしているスマートセンシング研究チーム。
「こんなところにセンサがあったら世の中の役に立つのでは?」を考え、そのためにはどんな素材や作り方をしたらよいのかをテーマに、研究者それぞれが取り組んでいます。
湿度変動電池を開発する駒﨑さんは、湿度発電の仕組みについて説明をしました。

湿度発電の仕組みについて説明する駒﨑友亮さん


安全で柔軟かつ折りたためる全固体電池を導入できれば、例えば、自然と人の位置や動き、気温や湿度を感知して役立てられるようになる等、より人に寄り添ったデバイスが生み出されるのではないかと、ウエアラブル(身にまとえる)電池の開発に取り組むウェルビーイングデバイス研究チームの鈴木さん。

人に優しい電池について説明する鈴木宗泰さん

鈴木さんが紹介した動画の中で、薄くて折りたためる電池をハサミで切るシーンでは、思わず生徒たちがざわつく場面も。

同じウェルビーイングデバイス研究チームの加納さんは、湿度変化に素早く応答する湿度センサの開発に取り組んでいます。
日々の生活の中で、人の身の回りには水分が不可欠です。人の身体も体重の6割は水分。
空間の湿度のバランスで過ごしやすさが変わり、快適な生活や健康の維持、スキンケアにいたるまで影響されると考えています。

湿度センサについて説明する加納伸也さん

 

研究者とフリーディスカッション


職業観を養うことを目的とした、高校生が研究者に直接質問できる貴重な時間。
研究テーマ、研究の面白さ、壁の乗り越え方、Society5.0についてなど、高校生からの質問に、「人に寄り添い人の能力を高める研究」の深さが伝わる回答を返す研究者。
高校生は事後学習として、それぞれが収集した情報を他グループに共有するため、一生懸命メモを取っていました。

質問する高校生


理系進学を考えている中高生に向けて、一部、紹介します。
 
人間拡張研究  ―身体的な部分以外の研究はある?-

人間拡張には、個々人を拡張する方法と個人の身体的な拡張だけでは解決しない課題について、その個人を取り巻く環境も拡張するという方法があると話したのは三浦貴大さん(共創場デザイン研究チーム)
サービスの創出やそのための心理学の研究、また制度設計などもそのひとつです。
三浦さんが研究している視覚や聴覚に障がいを持つ人の支援では、「障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)」や「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」などの施行に伴う法律的な支援の枠組みができたことで、機器やサポートを利用するための体制が強化され,様々な支援を受けやすくなってきました。

三浦貴大さん
三浦貴大さん(手前)
 
―完全に視力や聴力を失った人へのサポートは?―

具体的にどのようなサポートがあるのかという質問に、失明・失聴の時期により方法は異なると話します。
先天性の方の場合は、主に視覚支援学校や聴覚支援学校などで専門的な生活訓練を行っていく他、最近ではインクルーシブ教育の進展から一般校に通う人達も増えてきており、移動やコミュニケーションなど社会生活を送る上で必要なスキルを獲得していくなど、義務教育の段階から社会に出るためのサポートがされています。
一方、中途失明、中途失聴などの後天性の方の場合は、基本的にはリハビリ施設で社会復帰に向けた訓練を進めることになります。

 
音の可視化とは―どういうサービスに活用する?-

音を色で表し、目で見えるようにする研究をしていると自己紹介した河本満さん(共創場デザイン研究チーム)
すると高校生がPCの音楽プレイヤーのビジュアライザーとか?と質問。
「そんな単純なものじゃないんですよ」と笑いを誘います。

河本満さん
河本満さん(右)

マイクで拾った音のデータを蓄積して、音の特徴を色(RGB)で表す研究について説明する河本さんは、昨年の見学会では「色がどういう音に対応しているのかは、まだわからない」と話していましたが、「だんだんとわかってきました」と報告。
ディスカッションや会議のような場の雰囲気を可視化してフィードバックするようなサービスに結び付けたいと意気込みを語ります。
新しいことを思いつく思考回路の身に付け方という相談に河本さんは、「新しいことを考えるって非常に難しい。例えば論文を読んで、論文の内容がわかってきた時に、これってこういう風にできるんじゃないかってふと思った時に、新しい手法や考え方を生み出したりするので、色々考えてみる、そんな頭の使い方をこれからできるようになるとよいと思います」と応えていました。
 
高齢者の転倒予防―具体的なサービス事例は?―


中嶋香奈子さん

中嶋香奈子さん(左)

人の動きをどう評価するか、その動きをセンシングするセンサからデバイスを作製する研究をしている中嶋香奈子さん(運動機能拡張研究チーム)は、高齢者の転倒を予防するには、「事前にどういうことを行うといいか」を研究して予防できるような技術やサービス開発を目指しています。
企業との共同研究という形で、自然とこういう動きになるようにしましょうとか、こういうところを改善すると安全を担保できますというようなことを考えて、それをサポートできるような製品を企業と一緒に作っていると話しました。
仮説と違う結果に落ち込んで、それでも諦めずに頑張ったというようなエピソードを聞かれ、「予想と違う結果が出ることも面白い」と答えた中嶋さん。
実験でなかなかうまくいかずに落ち込むこともありますが、その失敗が後になって、このやり方をすると、こういうこともわかるという発見になったりするので、一概に無駄ではありませんとコメントしました。
 
専門分野の選択―なぜ、研究者?なぜ産総研?―

延島大樹さん
延島大樹さん(左)

「大学3、4年生にさかのぼります」と話し始めた延島大樹さん(スマートセンシング研究チーム)。
延島さんが所属していた学科は、前進が写真学科(今はありません)で、デジカメへ移行する流れの中で、化学系も情報系も勉強していました。
情報の勉強をしたいとその学科に入った延島さんでしたが、当時は情報系の就職先がSE(システムエンジニア)であることが多く、4年生になる間際に化学系を選択したそうです。
修士を終えて企業に就職するつもりが、先生の勧めで博士課程に進み、研究者として独り立ちできるスキルを身に付けました。
企業の研究職や国の研究機関などの選択肢があるなかで、大学の研究室の先輩が産総研で働いていたこともあり、就職する前にポスドクという形で産総研で研究をする機会を得ます。
ここで研究を続けたいと思い産総研に就職した経緯を語り、「常に技術が進歩していくなかで、自分たちの情報をアップデートしていかなければ、最前線に立っていけないので、基本的にはずっと勉強していかないとなりません」と、コメントしました。
 
研究で社会課題解決-自身が解決した過去の研究は?-

工学部建築学科出身の森 郁惠さん(認知環境コミュニケーション研究チーム)は、建築環境工学という分野で「人の生活環境と健康の関係」について研究しています。
主に対象としているのは温度や湿度といった温熱環境と、体温調節や運動、睡眠などの関係です。

森郁惠さん
森 郁惠さん(中央)

夏に運動して身体が熱くなった時に、顔に水をかけて冷やすと気持ちよくなるのに、少しするとまたカーッと熱くなった経験はありませんか?
森さんは、中学時代のバレーボール部の活動時に感じた、「冷やしたのになんでなんだろう」という疑問が自身の「なぜ、なに」の根っこだと話します。
人間の体温調節の不思議な現象について説明した森さんは、まだ解明しきれてはいませんがと前置きし、この現象について論文を発表し、それを読んだ企業から問い合わせを受けるなど、少しずつ進歩しながら課題解決していると話しました。
「生まれ変わっても研究者になりたい」と話す森さんは、自分の限られた時間のなかで、自分のエネルギーを注ぎ、誰かの役に立つことに時間を割くことができると、研究のやりがいについて語りました。
 
Society5.0 -今どのくらい?-

「まだ5.0にはなっていないと思います」とコメントしたのは、延島大樹さん。
メタバースのような情報社会に少しずつなってきてはいるが、国の指針で出している5.0の項目が全てできているわけではなく、今は過渡期にあるのではと話します。
人間拡張研究センターでは、人からの情報を測るデバイスを作り、測ったデータを収集し、情報処理をして、サービスを作り出すことをしており、それもSociety5.0で言うところの「人の生活を豊かにする」もののひとつです。
できないものをできるように少しずつやっていくのが、私たちの仕事と話す延島さん。
昔の人たちがSFの世界でこういうものがあると便利だなと描いていたものが、実際にできて現実のものになっていくので、今、みんながあればいいなと夢の様に思っているものができるようになって、やがて6.0に繋がっていくのではと意見を述べました。


梶谷勇さん
梶谷 勇さん(右)


必ずしもSociety5.0の最先端技術だけが大事なのではなく、そうではない部分が現実には大きいということも知っておいて欲しいと話した梶谷 勇さん(生活機能ロボティクス研究チーム)。
梶谷さんは、介護や福祉などの分野で、人を支援するロボットや新しい技術を使ってもらうにはどうしたらいいかということを研究しています。
現実の世界は、最先端技術の恩恵に預かっている領域とあまり預かっていない領域があり、どちらかというと、最先端技術から取り残されている、あるいは取り残されそうなところについて、どうしたら取り残されなくなるかという研究です。
元々はAIの研究者だった梶谷さん。
AIについても同様で、データや情報がちゃんと保存されている分野はAIを活用していろいろな面で伸びていくのは間違いありませんが、介護や福祉などは、現状データが残っていないため、ほぼAIから取り残されそうだとわかっていて、なかなか難しいのが現状だと言います。
研究の面白さについて質問されると、「知らないことを自分で調べてわかっている状態になることがすごく楽しいし、幸いなことにそれを仕事としてできるので楽しい」とコメントしました。
 
谷口所長コメント

皆さん積極的で感心させられました。若い人たちとの交流は研究者にも良い刺激になります。
研究施設の見学や研究者とのディスカッションを通じて、科学技術への興味と研究者への理解を広げてもらえたなら嬉しいです。



集合写真

集合写真Aグループ

集合写真Bグループ

集合写真Cグループ






 
国立研究開発法人産業技術総合研究所