Ⓒ yukikazu ito.
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2mの巨体が、唸りながら前へ一歩ずつ踏み出す。
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ヒトとともに生きるため、このロボットには優秀な「目」が与えられた。
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彼の目は、遠くない未来を見据えている。
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実験用のカエルと研究者の触れ合い。
科学の礎となる命に敬意を払った、束の間の交歓。
アンモナイトの対数螺旋を辿りながら、自然界と数学の蜜月を思う。
目の前の現象は、より観念的な真理への入り口となる。
世界に新たな価値をもたらすことも、科学の使命だ。
次の時代を彩るテクノロジーの候補たちが、日夜、ラボでその価値を試されている。
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一切の電磁波が遮断された部屋で、研究者はひたすらに試し続けた。
技術の真価を。己の真価を。
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燃える氷。
研究には、情熱と冷厳が同時に求められる。
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海を見ない人
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雄大な大海原を前にしながら、地質学者は陸を見る。
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岸壁に来たのは、陸地の終端を見るために他ならない。
絶景でもなく、波濤でもなく、岩肌が彼を虜にする。
ホヤとともに
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彼の朝は、産卵装置に入っているホヤの確認から始まる。
元気だろうか? 今日は卵を産みそうか?
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「ヒトに近いけれども極めて簡単なつくりであるホヤを調べることで、見えてくることがたくさんあります」
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ホヤから得られるデータが、いずれヒトの神経医療に役立つと信じて、彼は研究者人生をホヤに捧げる。
ホヤとの対話が今日も始まる。
科学には、人の心を捉えて離さない何かがある。
海を見ない科学者たちが見据えていたのは、
大海原よりも広大なフロンティア。
それぞれが、人生を捧げると心に決めたライフワークだ。
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解放された「キログラム」
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つくばセンターの地下に、厳重な管理のもと鎮座している小さな金属柱。
かつての重責は和らいだが、その価値は衰えることなく威厳を保つ。
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Le kilogramme est l’unité de masse ; il est égal à la masse du prototype international du kilogramme.
(キログラムは質量の単位であって,単位の大きさは国際キログラム原器の質量に等しい.)――SI文書第8版
130年のあいだ、「1キログラム」とは、ある一つの「おもり」の質量に他ならなかった。
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他の単位がもっと普遍的で精緻な基準へと更新されるなか、「物」に取り残されたキログラム。
世界の研究者たちは、国をまたぎ、長い年月をかけて、キログラムのアップデートを目指した。
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そして2019年、ついに「おもり」の安定性を計測技術が上回ったことが証明された。
キログラムの定義は物理定数へと更新され、130年の軛から解き放たれた。
だが、この長い旅路に終わりはない。
科学の進歩と歩調をあわせて、さらなる高精度への挑戦が続いていく。
繰り返し現れる円環のイメージの如く。
足下のさらに下
日本最古の地質図「日本蝦夷地質要畧之圖」
人々が文明開花の空を見上げたころ、大地と向き合い続ける者たちがいた。
殖産興業のために、炭鉱や金鉱の探索は国家事業として急がれていた。
それから140年の月日が流れる。
プレートは動きはじめ、エネルギーの「顔」は次々と代替わりする。
地球科学そのものも、地質調査に期待されるものも変貌した。
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だが、140年。
地球にとっては、瞬きほどにすぎない。
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悠久のなかで刻まれる地層との対話は、粘り強い時間感覚が求められる。
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140年の研究の蓄積が、年輪の円環を成す。
今日の研究は、先代が積み上げた地層の上に立つ。
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地質図にまた1枚が加わる。
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数十年後にこの地を調査する後進のために、宝の地図を残していく。
受け継がれる夢
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もはや思い出す者もいない機器がひっそりと眠る 「保存棟」。
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50年前、研究者たちは、まだ腕しかないロボットを前に、ロボットと人が共存する理想社会を夢想した。
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彼らの意志は脈々と受け継がれ、その結晶は、ゆっくりと歩みを進めつつある。
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社会の要請にあわせて姿形を変えながら、50年前の夢が伏流する。
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先人たちが積み重ねてきた膨大な努力と知識。
今日の研究は、その上に立っている。
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研究所の片隅に、一本のリンゴの木がある。
アイザック・ニュートンに万有引力の天啓をもたらした、あのリンゴの子孫だ。
英国の研究所との親善の証に譲り受けた穂木は、つくばの土でのびのびと育った。
なぜか、実のつく時期が不安定。いつ生るのかは誰にもわからない。
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研究は、必ず一定の成果があがるとは限らない。 目の前の仕事が本当に結実するか、確かな保証はどこにもない。 気まぐれに実をつける、あのリンゴの木のように。
それでも、それが未来の誰かに届く果実になると信じて、研究者は今日も地道に研究を続ける。
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たくさんの失敗を重ねながら。
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試す。
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試す。
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未来は、その先にしかないから。
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いまこの瞬間も、世界中の研究者たちが試行錯誤を続けている。
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子どものころ、みんな「ハカセ」にあこがれていた。
けれども、その純粋な興味を貫けるのはごくわずか。
未知のものへの探究心、己が未来を切り拓くという自信を持ち続けた者だけが、本物の「博士」になれる。
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ある研究者は言う。
何かを解き明かした先で、また新しい謎に出会えることは、喜びなのだと。
都心の喧騒から少しだけ離れた研究所で、より良い未来を目指した彼らの飽くなき挑戦は続く。
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伊藤之一氏が2023年3月22日に永眠されました。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。