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世界でいちばん正確な1秒!

テクノロジーと「不確かさ」とのあくなき闘い

文字盤のない時計

 皆さんが持っているクオーツ時計は、水晶の振動を利用して1秒を測っています。たとえば水晶振動子が32,768回振動すると1秒、といった具合です。一般的なクオーツ時計の精度は、6桁~7桁程度。これは、100万秒から1000万秒につき1秒ずれる、という意味です。かなり高精度のように見えますが、100万秒はたったの11日半でしかありません。クオーツの中でも最高のものは、10桁の精度がありますが、これを使って時計を作ったとしても、100年に1秒程度ずれてしまいます。

 ずれた時間は、正確な時間に合わせなくてはなりません。その正確な時間の基準を決めているのが、原子時計なのです。

 すべての原子は、固有の共鳴周波数を持っています。原子は、この共鳴周波数のマイクロ波だけを吸収したり放出したりします。

 1秒の基準となっているセシウムの共鳴周波数は、9,192,631,770Hz。この周波数にぴったり合ったマイクロ波を浴びたときだけ、セシウム原子のエネルギー状態がわずかながら高くなります(「励起」と呼びます)。共鳴周波数は一定不変ですから、励起しない場合は、周波数が間違っているということになります。言い換えれば、セシウム原子が励起したなら、そのマイクロ波の周波数は9,192,631,770Hzである、と証明できるのです。

 周波数が9,192,631,770Hzなら、その周期は9,192,631,770分の1秒です。当然、周期の9,192,631,770倍の時間が、1秒になります。

 つまり原子時計とは、マイクロ波の周波数を確認することで、1秒の長さを決めるものなのです。原子時計というのも実は通称で、正式名称は「原子周波数標準器」といいます。ですから、原子時計には文字盤が必要ありません。

 原子時計は、周波数を確認して、クオーツ時計の水晶発振器にフィードバックし、安定化させるためのものなのです。原子時計は、テレビ局やラジオ局、NTT、携帯電話の基地局、GPSの衛星など、正確な時間や周波数を必要とする、さまざまな場所で使われています。

 これらの原子時計、すなわち「原子周波数標準器」は、12桁から13桁の高精度を実現しています。1万年から10万年に1秒のずれです。

 しかし、これらの「原子周波数標準器」もチェックを受けています。チェックしているのは、「1次周波数標準器」と呼ばれる、世界に数台しか存在しない、より高精度な原子時計です。

 産総研が開発した原子時計「JF-1」は、その1台なのです。

「不確かさ」をもたらすもの

 原子の共鳴振動数が一定不変なら、それを利用した原子時計で測った1秒も一定不変で、ずれることはないはずだ、と思われる方もいるかもしれません。ところがそうはいきません。原子時計に「不確かさ」をもたらす要因が、いくつもあるのです。

 そのひとつが、「原子の熱運動」です。

 原子時計で使うセシウムはアルカリ金属で、常温では固体です。まずはこれを熱して、気体にしなければ、原子を扱うことはできません。ところが、気体となったセシウム原子は、熱運動が活発になり、平均300m/sという音速に近いスピードで飛び回ります。

 相対性理論にある「ウラシマ効果」という現象をご存じでしょうか。高速で移動していると、時間の流れが遅くなる、というものです。300m/sでの「ウラシマ効果」は微々たるものですが、それでも確実に存在し、正確な測定を阻んでしまいます。

 もうひとつが、「観測時間の短さ」です。

 マイクロ波による原子の変化を観測する時間が長ければ長いほど、原子時計は高精度になります。ところがセシウム原子は、原子時計の中を平均300m/sで飛んで行きます。観測時間はほんのわずかしかありません。これを解決するには、原子時計を大きくするしかありませんでしたが、それにも限界があります。

試行錯誤の連続ですが、より正確なものを作って提供するのが仕事です」と語る黒須博士。ちなみに博士の腕時計は、2分進んでいる。「もちろん、わざとですよ(笑)」

黒須博士の写真

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