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「ナノ」の決死圏!

ナノの「ミサイルドラッグ」が、患部だけを攻撃する!

治したい所にだけ効く薬があれば、副作用は最小限になる

 病気になって病院に行くと、薬があたえられます。大抵の場合、飲み薬が処方されて、持ち帰ることになるでしょうが、その場で注射されることもあれば、点滴で注入されることもあります。

 これらの一般的な薬には、もちろん、症状を抑えたり、病原菌を殺したりといった効果があります。

 体内に注入された薬は、血管を通して全身をめぐります。体中が薬だらけになるわけです。ということはつまり、全身の細胞がなんらかの影響を受けるということです。病気を引き起こしている患部は、体の中のごく一部でしかありません。他の部分に影響をあたえるのは、無駄であるばかりか、有害な場合もあります。強い薬には副作用がありますが、それは、患部以外の健康な部分に薬が作用してしまうためなのです。

 患部だけに作用する薬があれば、副作用の心配はほとんどなくなります。薬の量も少なくてすむでしょう。そんな理想的な薬が、「標的指向性ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)」です。

患部を確認して到達する、「ミサイルドラッグDDS」

 「標的指向性DDS」は、患部の細胞を標的として、そこだけに薬を運んでいくシステムです。薬を運ぶのは、分子を組み合わせて作った、ナノサイズのカプセル。脂質の分子で作ったカプセルを、「リポソーム」といいます。

 「標的指向性DDS」には、「パッシブ・ターゲティング」と「アクティブ・ターゲティング」の2種類があります。

 「パッシブ・ターゲティングDDS」は、「リポソーム」の大きさや表面の性質を工夫することで、ターゲットに的中しやすくしたDDSです。1990年代から販売が開始されていて、高い評価を得ています。

 もう一方の「アクティブ・ターゲティングDDS」は、「ミサイルドラッグDDS」とも呼ばれています。ミサイルが標的を認識し、それに向かって飛んで行くように、患部の細胞を認識して、自分からそこに向かい、そこだけに作用する、文字どおりの「ターゲティングDDS」なのです。

 「パッシブ・ターゲティングDDS」の場合、患部に到達する確率を高めるためには、大量に注入する必要がありますし、到達するまでには時間もかかります。それに対して「ミサイルドラッグDDS」なら、ほとんどが患部の細胞に到達しますから、必要な注入量は格段に少なくてすみ、短時間で到達することができます。

 つまり、必要な時に、必要な場所へ、必要な量だけ薬を運ぶことができるのです。

 「ミサイルドラッグDDS」は「21世紀の夢の製剤」として期待され、世界中の研究機関が研究・開発に取り組んでいます。

図:パッシブ・ターゲティングDDS

パッシブ・ターゲティングDDS


図:アクティブ・ターゲティングDDS

アクティブ・ターゲティングDDS

「ミサイルドラッグDDS用ナノ粒子」の作製に、世界で初めて成功

 それらの研究機関に先駆けて、世界で初めて「ミサイルドラッグDDS用ナノ粒子」の作製に成功したのが、産総研の山嵜博士です。

 これまでにも、試験管の中でなら、標的の細胞を認識する「ミサイルドラッグDDS」は実現していました。しかし生体内では、なかなかうまくいきません。何しろ人間の場合、細胞は60兆個もあるのです。その中から標的を見つけ出すのは、至難の業でしょう。

 ではなぜ、山嵜博士の「ミサイルドラッグDDS用ナノ粒子」は成功したのでしょうか?

山嵜博士の写真

「長い道のりでしたが、ようやく成果が見え始めました」と語る、山嵜博士。「生命のメカニズムが面白かったこと、そしていろいろな人たちとの出会いがあったからできたのでしょうね。興味のあることを続けてやって行くと、苦労もありますが、楽しみもたくさんありますよ。」


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国立研究開発法人産業技術総合研究所