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ナゾの料理研究家?

料理の材料は原子と分子!?

料理研究家の正体

写真:一次元ナノ構造チームで合成したカーボンナノチューブ

一次元ナノ構造チームで合成したカーボンナノチューブ

 ナノというのはミリの百万分の1の単位。つまり1ナノメートルというのは百万分の1ミリメートルということになります。このナノの世界とは、原子・分子のレベルの世界で、原子は、直径およそ0.1ナノメートルという大きさです。

 このナノという単位を頭につけた、ナノテクノロジーという言葉があります。つまり分子サイズのテクノロジーで、今まで知られていなかった微細な構造物を発見したり、作り出したりし、その今までには見られなかった新しい特性を、いろいろな産業分野に応用していこうというわけです。

 例えば平成3年(1991)に発見された「カーボンナノチューブ」。筒のような構造をした微細な炭素原料で、原子を見ることの出来る走査型トンネル顕微鏡の、物質の形を読みとる“針”などに応用されています。

 自然に集まる“自己集合”という分子の現象を利用して作りだした有機化合物は、抜糸しなくても自然に消滅する手術用糸や、体内のある場所で溶け出して薬を放出する微細カプセルなどへの応用が期待されています。

 このように新しい微細な構造物は、私たちに新しい世界をもたらす可能性を持っているのです。

 とは言え、まだ新しい物質を自由自在に作り出せるわけではありません。なにしろ相手は目に見えない分子ですから、はさみで切ったり接着剤でくっつけたりして簡単に出来るわけではありません。

 そこで登場するのが、ナノ物質のレシピを考える分子の料理研究家というわけです。

 料理研究家はあらかじめ作り出したい料理(物質)のイメージを固め、その材料(原子・分子)を一カ所に放り込みます。そして焼いたり煮たりして(いろいろな刺激を与え)、思い通りの料理(物質)を作り出そうというのです。ただし一カ所に放り込むと言ってもバケツやナベにではなく、コンピュータの中に…。放り込む材料も実物ではなく、原子・分子の情報です。そして温度を変えたり化学物質を与えたりして、原子・分子からなる構造体の形成をシミュレーション(模擬実験)していくのです。

 そして、そのシミュレーションを行っているのが産業技術総合研究所(産総研)です。そして、料理研究家の正体は、産総研のナノテクノロジーと計算科学の専門たちなのです。

建築家と料理研究家の関係?

C60フラーレンの構造

図:C60フラーレンの構造

 先程、カーボンナノチューブをご紹介しましたが、実はそのカーボンナノチューブが発見されたころ、同じ炭素材料であるフラーレンと呼ばれる物質に世界の研究者の目は集まっていました。フラーレンには何種類かありますが、その中でも特に注目を集めたのが、サッカーボールのような構造をしたC60というタイプのものです。

 実はこのフラーレンというネーミング、ある世界的に有名な建築家に由来しているのです。その建築家とはバックミンスター・フラーというアメリカ人で、彼は建築にとどまらず、数学、工学、哲学、歴史学などの分野でも天才的発想を示しました。ちなみに“人類は宇宙船地球号の乗組員”という考え方を提唱したのもフラーです。

 その彼の代表作が、通称「フラー・ドーム」と呼ばれる最小限の資源で最大の容積を確保出来る構造物です。そのフラー・ドームとC60の構造が同じだったため、フラーにちなんでフラーレンと命名されたのです。しかしフラーレンが発見されたときは、当のフラーはこの世を去った後でした。

フラー・ドーム

図:フラー・ドーム

 フラーはもちろん分子のシミュレーションをしてフラー・ドームを考え出したわけではありません。しかしこのフラー・ドーム、“自然が先天的に持っている複数の作用が共同しあって作り出すシナジー的パターンを組織化し、理解する学問”という、フラーオリジナルのシナジー幾何学の産物なのです。ちなみに“シナジー”とは“結合された状態になったとき初めて現れる、部分からは予測できない性質やふるまい”のことです。

 少し脇道へそれましたが、フラーの考え方と彼の生み出した構造物は、まさに分子の自己集合によって作られる新しい化合物の出現を予見しているようで、実に興味深いと思いませんか?

「理論研究の道具は昔は紙と鉛筆でしたが、今はコンピュータが大活躍です。でも、一番大事なのは研究者の頭脳だということは、今も昔も変わりません」(阿部修治博士)

「ナノテクノロジーは21世紀の省資源・省エネルギーの切り札。これを本当に役立つものにするため、ナノシミュレーション技術の確立を目指して研究しています」(三上益弘博士)


阿部修治博士の写真
三上益弘博士の写真

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