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ナノの世界の芸術家?

生物界、自然界への挑戦!

生物の体に学ぶ

 自然界の造形というのはとても精妙で、ミクロの世界をのぞいてみると、大きさが1ナノメートル以下という小さなアミノ酸の分子が一定の順序で連結されてタンパク質を形成し、そのタンパク質が規則的な配列で集合して組織体になり、さらにその組織体が集まって細胞を作っているという具合に、階層的に複雑になっていきます。

 例えば、アキレス腱などで知られる“腱”を見てみましょう。まず原子が連結してアミノ酸を作ります。そのアミノ酸が連結してタンパク質を作ります。そのタンパク質がコラーゲンを作ります。コラーゲンは連結して繊維を作り、その繊維が集まって太い繊維を作り、その繊維がさらに集まってもっと太い繊維を作っています。このように私たちの腱一つとっても、実に精妙な階層によって出来上がっています。

 つまり、0.1ナノメートルほどの小さな原子レベルから、メートルオーダーの動物の体の大きさまで、あらゆるサイズで構造が整然と出来ているのです。

 一方、物理的に作った人為的な造形では、研究室レベルでの話を別にして、10ナノメートルという大きさが今のところ最小の限界です。つまり、原子の大きさの100倍の大きさが、人為的構造物の限界なのです。

腱の膜式図

図:腱の膜式図

生命誕生に学ぶ

「顕微鏡でしか見えない水中の小生物、例えば、ミジンコ1つとっても、その体のつくりには私たちの想像を超えた巧妙なシステムができています。

 しかも、それが自在に動き回る姿をみると、まるで人工微小バイオロボットのようにも見えてきます。

 近い将来、ナノテクノロジーの進展によって血管や消化器官の中を指示通り動き回って、表面を観察し、清掃してくるような微小ロボットが分子からできれば・・・といつも夢を見ています」

(清水敏美博士)

清水敏美博士の写真

 生物の体は、ナノレベルからメートルレベルに至る実に精妙な階層によって成り立っていますが、その生物自体、かつてはこの世に存在していませんでした。では、どのようにして生命は誕生したのでしょうか?

 実は、冒頭でご紹介した作品群は、生命誕生のナゾと深い関係を持っているのです。

 生命誕生は今から36億年ほど前だと考えられています。そしてその生命誕生のナゾに対し、多くの人たちがいろいろな仮説を立ててきました。

 ところが1950年代初期、世界をあっと言わせる実験が行われたのです。

 その実験は、当時シカゴ大学にいたミラーという大学院生と、そのミラーが配属された研究室の教授、ユーリーによって行われました。

 彼らは研究室内に原始地球のモデルを再現し、雷の代わりにその中で放電を行ったのです。その結果、フラスコの中に再現された原始の海の中に、アミノ酸を始めとした生物と深いかかわりのある有機物、つまり生物の材料が発見されたのです。

 なにしろその当時、有機合成化学はめざましい発展をとげていたとはいえ、アミノ酸の合成などとても出来る段階にはありませんでした。

 そのアミノ酸が、なんらかの条件のもとで結合していくことによってタンパク質が生まれ、生命誕生に一歩近づくわけですが、生物の体の中で同じ作業を行っているのは細胞の中のリボソームと呼ばれる直径15ナノメートルほどの小さな球体です。つまり原始の海で行なわれていたタンパク質合成が、生物の細胞の中に今でも引き継がれているのです。

 このように自然界では、分子が自分たちの力で集まる“自己集合”という力学によって、筋肉や腱のような複雑な構造体を作り出しているのです。

 この“自己集合”の力を利用して構造体を作り出せれば、今までとても合成することが不可能だった3次元のオブジェ物質を得られるかもしれません…。

 実は、ミクロのオブジェの秘密はそこにあるのです。つまり、冒頭でご紹介した作品群は、分子が自然に構造体を作り出す力を利用した、自然と産業技術総合研究所(産総研)の研究員による共同作品なのです。

 それでは、各作品の制作秘話を見ていきましょう。

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