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鏡に変身するガラス窓?

鏡のアリスはどこへ消えた?

世界初の高い可視光透過率を実現

マグネトロンスパッタ装置の写真

マグネトロンスパッタ装置。
ガラスに、金属マグネシウムと金属ニッケルをコーティングする。

 1996年にオランダで発見された調光ミラーの材料は、イットリウムやランタンという希土類から作られた金属薄膜。しかしこの希土類は地球上に多く存在しないために高価で、窓に用いるには実用的とは言えませんでした。

 その後、2001年にアメリカでマグネシウム・ニッケルの合金薄膜が調光ミラーに適した性質を持つことが報告されます。こちらは安価で大量に作れるのですが、欠点は透明状態にしたときの可視光透過率が15パーセント程度と低く、濃い茶色に濁って、とても透明とは言えないこと。

 産総研ではこのマグネシウム・ニッケル合金薄膜の性能を向上させる研究に取り組み、2002年末、可視光透過率が50パーセント以上という、世界で初めての高い可視光透過率を持つ材料の開発に成功しました。

 調光ミラーの作り方は、水鉄砲のようなスパッタ銃で、ガラスに金属マグネシウムと金属ニッケルを同時に飛ばし、マグネシウム・ニッケル合金薄膜をコーティングします。そして、その上に金属パラジウムを薄く付着させます。

 しかし3つの金属の成分の割合や膜の厚さなど、製膜条件が難しく、可視光透過率を上げるために、何度も条件を変えて実験を重ねました。その結果、ついに光学特性にすぐれた薄膜を完成させたのです。

 金属膜の厚さは、マグネシウム・ニッケル合金薄膜が40ナノメートル、パラジウムが4ナノメートル。1ナノメートルは10億分の1メートルなので、どれほど薄い膜か、分かってもらえるでしょう。

 この鏡のような銀色の金属膜が、透明になったり鏡に戻ったりすることで、調光ミラーとして光や熱をコントロールすることになるのです。

ガスを使うガスクロミック方式

図 ガスクロミック調光ガラスの仕組み

 寒い地方では、断熱性・保温性を高めるために2枚のガラスの間に乾燥空気を封入したペアガラスという二重ガラスが使われています。調光ミラーはこのペアガラスが進化したものと言えます。

 調光ミラーでは、2枚のガラスのうちの1枚の内側に、先ほどのマグネシウム・ニッケル合金薄膜とパラジウムの2層の薄膜をコーティングし、2枚のガラスの間には、アルゴンという不活性ガスを入れておきます。

 窓には、ガラスの間に酸素と水素のガスを入れられるようにしておき、燃料電池を取り付けておきます。燃料電池に電圧をかけると、水が酸素と水素に分かれます。

 さて、これが基本の状態。金属膜は銀色で、ガラスは表裏とも鏡の状態になっています。

鏡から透明へ透明から鏡へ

ガスクロミック方式による変化
左が鏡の状態で、手前の「鏡の国のアリス」のイラストが写っている。右が透明になった状態で、ガスの注入口と、文字が見える。

写真1:ガスクロミック方式による変化 写真2:ガスクロミック方式による変化

 さぁ、夏の夕暮れ、暑さも和らいだようなので、ガラスを鏡の状態から透明な状態にしてみましょう。

 スイッチ・オン! ガラスの間に水素ガスを入れると、鏡の状態にあったガラスがだんだんと透明になってきました。どうしてこんなことが起こるのでしょう?

 水素分子は水素原子が2つつながっていますが、パラジウムに触れると2つに分かれて、マグネシウム・ニッケル合金薄膜に入っていきます。すると水素原子は水素化物となって「水素化」が起こります。水素化物は透明なので、調光ミラーは鏡から透明へと変化していくのです。

 夏の午前中、温度計はどんどんと上がっていきます。今後は透明なガラスを鏡にして、熱が入ってこないようにしましょう。

 2枚のガラスの間に酸素ガスを入れると、酸素分子はやはりパラジウムに触れて原子となり、マグネシウム・ニッケル合金薄膜の中に入っていきます。この酸素原子は水素化物を吸い出すようにして結合し、水(水蒸気)となって抜けていきます。この「脱水素化」によって、透明なガラスは金属の状態、つまり鏡へと戻っていくのです。

 このように、ガスを使ってコントロールする方法を、ガスクロミック方式と言います。この方式は、建物の窓など大きな面積を持つ窓への応用が研究されています。

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