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東京湾の未来が見える?

東京湾の生物に対する「化学物質リスク」がパソコンでシミュレートできる!

アサリの成長を止めてしまう化学物質

 船底や船側には、放っておくとフジツボなどの生物がびっしりと貼りつきます。生物が貼りつくと、滑らかな船底や船側はでこぼこになり、水の抵抗が増してしまいます。そのせいで、船のスピードが落ちてしまうわけです。

 これを防ぐために、船底のペンキには、「トリブチルスズ化合物(TBT)」という化学物質が含まれています。「TBT」はフジツボなどの生物にとって毒物ですから、それらを寄せつけず、船底や船側をつるりときれいに保つことができます。おかげで、余計な燃料を燃やす必要がなくなり、二酸化炭素の排出量が減ります。また、外国の生物(有害なプランクトンなど)を持ち込んで、生態系を崩してしまう恐れもなくなります。

 問題は、この「TBT」が海水に溶け出し、海域を汚染してしまうことにあります。「TBT」の毒性は、人間にとっては問題にならないほどですが、海水中でこれを浴びるアサリやマガキなどには、深刻なダメージをあたえてしまいます。

 というのも、「TBT」には、成長を阻害する作用があるからです。たとえばアサリは、卵からかえると、プランクトンのような状態で、2週間ほど海中を漂います。やがて海底に沈んでいきますが、これは、成長して重くなるためです。そのとき、海底の深さが5メートル以上あると、アサリは生きていくことができません。成長が遅れれば、それだけ遠くに流されてしまい、深い海底に沈んでしまう可能性が高くなるのです。人間からしてみれば、アサリの収穫量が減るということです。

 これを重要視した国際海事機構(IMO)は、2008年以降、船舶への「TBT」の使用を禁止することを策定していますが、すぐにリスクがなくなるというわけではありません。

海域環境の維持・回復に不可欠な、「化学物質リスク評価モデル」

 産総研では、以前から東京湾における「TBT」のリスクをシミュレートする「化学物質リスク評価モデル」を開発していました。シミュレートするためには、さまざまなデータを組み合わせて計算しなければなりません。

 1つは、化学物質のデータ。化学物質の流入量や、その化学物質が生物に影響をあたえる濃度、分解速度、沈降速度、温度係数といった、性質に関するデータです。このようなデータさえ揃っていれば、どんな化学物質でもかまいません。

 2つ目は、その海域での流れや水温、塩分の分布などの、リアルタイムのシミュレーション・データです。このデータは、河川のデータや気象データ、風のデータ、潮位のデータといった、さまざまなデータから計算し、導き出していきます。これを「流動モデル」といいます。その計算は複雑きわまるものです。たとえば気象データひとつを取ってみても、気温や湿度、日射量、雲の量まで計算に入れなければいけません。

 産総研の「流動モデル」の場合は、水平方向だけでなく、海面から海底までの垂直方向の動きも計算しています。浅いところと深いところでは、流れも水温も、塩分の濃度分布も異なってくるからです。

 3つ目は、栄養塩や植物プランクトン、動物プランクトンなどの濃度のシミュレーション・データです。「流動モデル」の計算結果を使い、さらにデータを加えて計算します。これは「生態系モデル」といい、通常は水質の評価などに使われています。

 さらに「流動モデル」、「生態系モデル」のデータ(計算結果)に、「化学物質流入負荷量」のデータを当てはめて計算を行い、その化学物質がどうなっていくかを予測していきます。これを、「化学物質運命予測モデル」といいます。その化学物質の濃度や海底への堆積量、そして生物へのリスクなどが、時間が経つにつれてどのように変化していくかを予測します。予測の結果は、分布図やグラフなどで見ることができます。

 このような「化学物質リスク評価モデル」は産総研の他にはなく、海外でも高い評価を得ています。

東京湾の海洋生態系模式図
図:流れ

流れ

図:水温

水温

図:塩分

塩分

図:表層におけるDOC濃度

表層におけるDOC濃度

図:表層における植物プランクトン濃度

表層における植物プランクトン濃度

図:表層における動物プランクトン濃度

表層における動物プランクトン濃度


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国立研究開発法人産業技術総合研究所