Vol.7 No.3 2014
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研究論文:放射線による生体障害を軽減する高安定化細胞増殖因子の開発(今村)−145−Synthesiology Vol.7 No.3(2014)類の分子の中から放射線防護活性を期待できる因子について、それらの活性を実験動物マウスを用いて比較した。放射線障害の解析項目として生命を脅かす重篤な障害である小腸クリプトの細胞障害を選択し、これを指標として放射線防護活性を比較したところ、FGF7やFGF7に活性が類似しているFGF10に比べて、FGF1がより強い放射線防護効果を示すことが明らかとなった(図3)[1]。しかし、FGF1にはそれを医薬品として使用するにあたり弱点があった。それは天然型のFGF1は物理化学的にも生物活性上も不安定であることである。そこで安定化FGF(FGF1)を開発することが克服すべき技術課題として浮かび上がった。6 安定化FGF開発のシナリオ その1ーPG-FGF1の開発と先進性ゆえの課題我々は、さまざまな生物活性の面からFGF1の医薬応用を指向してきたが、応用上の大きな課題はその低安定性にあるという認識に至っていた。そこで我々はさまざまなアプローチによってFGF1の安定化を図った。その第一の成果としての分子群が科学的知見に基づいて構想し作製したPG-FGF1である。PG-FGF1の分子の構造を説明するためには、まずFGFの活性発揮のメカニズムを説明しなくてはならない。FGFは標的細胞の表面に露出しているFGF受容体の細胞外ドメインに結合し、受容体の構造変化を引き起こしてFGF受容体の細胞内ドメインに存在するチロシンキナーゼという酵素を活性化する。その際に、FGF分子群受容体との強固な結合と最大の活性化を得るために、細胞表面で糖鎖の力を得る必要が有る(図4)。この糖鎖は、硫酸化グリコサミノグリカンという糖鎖分類に属し、その中でも主にヘパラン硫酸という分子群に属する。ここで分子群と表現するのは、糖鎖骨格は類似でも硫酸化などミクロな構造においては多様な分子を包含した呼称だからである。ヘパラン硫酸等の糖鎖を共有結合した生体タンパク質をプロテオグリカン(PG)と呼ぶ。ヘパラン硫酸糖鎖がFGFと結合することによりFGFの構造と活性の安定化が起きることが、この糖鎖の生物学的重要性の一つであると理解される。そこで我々は、FGF1タンパク質の構造と活性化を安定化するために、細胞表面の分子の力を借りることなく、タンパク質とヘパラン硫酸を共有結合で一体化させようと考えた。そして、我々はプロテオグリカンとFGF1を一つの分子として作り出すことに世界で初めて成功し、これをPG-FGF1と命名した。PG-FGF1は、安定な物性の他に、炎症性の環境でより活性が高まるなど、医薬として理想的な性質を持つことが示された(図5)[2]-[10]。放射線防護剤としてもこの分子の性質は理想的であると考えられる。しかし、PG-FGF1を放射線防護剤として使用するためには解決すべき課題があった。それらは大別して品質管理を含めた医薬承認上の課題と生産上の技術的課題である。これらの課題は複合糖質(いわゆる糖鎖医薬の大半)の生産に伴う普遍的な技術的課題であり、その根本的解決にはまだ長い期間が必要である。そこでこの研究では、シナリオ2として、生産に伴う未解決課題がより少ないFGFCを選ぶこととした。その経緯の詳細については別の機会に記述することとして、この論文からは省略する。我々は思い切って開発シナリオを転換し、大腸菌で生産できる単純タンパク質であるために防護剤としての開発がより短期間で実現できると期待される高安定化FGF(FGFC:以下に記述)を基盤として、放射線防護剤を開発することとした。次項以降はこのFGFCについて述べる。なお我々は、PG-FGF1とFGFCはいずれも現存のFGF医薬を放射線防護剤として利用した場合よりも優れていると考えている。仮に両者が実現した場合には、その原理的な優秀性からPG-FGF1がより有用性が高いと期待している。このような考えに沿って、現存のFGF医薬を用いた放射線防護剤を第1世代としたとき、FGFCを第2世代、PG-FGF1を第3世代と位置づけている(図6)。7 安定化FGF開発のシナリオ その2−FGFCの開発とその特性7.1 FGFCの発想5章に述べたようにPG-FGF1は科学的知見に基づいて高機能化FGFの作製自体を目的として論理的アプローチで作製されたのに対し、FGFCはどちらかといえば幸運の図4 増殖因子FGFの活性発揮にはヘパラン硫酸などグリコサミノグリカン糖鎖の共存が必須である。PG-FGF1はFGF1とヘパラン硫酸を一体化した分子である。ヘパラン硫酸ヘパラン硫酸ヘパリンコンドロイチン硫酸プオテオグリカンPG-FGF-1の創製受容体FGFFGFFGF

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