Vol.7 No.3 2014
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研究論文:放射線による生体障害を軽減する高安定化細胞増殖因子の開発(今村)−142−Synthesiology Vol.7 No.3(2014)偽薬投与患者群を設定することは倫理的に許容されないことである。そこで、FGFCを防護剤として開発するためのシナリオを再検討した。現在、緊急被ばく事故等で医療現場での使用が報告されている放射線防護剤の多くは、別の疾患の治療薬として開発された医薬品の中で全身性の放射線防護剤としての有用性も確認されたものである。先行例として、癌の治療に伴う副作用の治療薬として米国で承認されたKGF(角化細胞増殖因子:後述)やGM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)がある。そこでこの研究ではこれらの先例を予定構図と位置づけ、2段階で防護剤開発を目指すというシナリオの再構成に至った(図2)。すなわち、第一段階では、確実に存在する患者群に対する治療薬としての医薬承認を実現し、その次の第二段階として放射線防護剤としての使用を実現するというものである。先行例に倣い、FGFCについてもまず癌治療の副作用を低減する副作用軽減剤としての承認医薬として開発することを第一段階と位置づけることとした。その後の第二段階として、この承認医薬を全身性の放射線防護剤として開発することとしている(図2)。3.1 放射線を用いた癌治療の副作用を低減する薬品の開発3.1.1 開発の道筋この開発方針の構成は、米国で医薬承認され癌治療の副作用低減剤として臨床で使用されているFGF7(別名KGF)の開発経路を踏襲している。癌の放射線化学療法を受ける患者は高線量の放射線を被ばくする。当然、癌組織以外の正常組織への障害が最小限となるよう照射に当たっての工夫はなされるが、現実にはかなりの副作用が発生する。特に、頭頚部癌に放射線を当てる場合には正常な口腔粘膜が激しいびらんを起こすため、患者は強い苦痛を訴え、食事や水が摂れなくなることが治療上の問題になっていた。FGF7は、このような治療を受ける患者に予防的および術後に投与されることで、この副作用を大幅に低減して患者のQOL(quality of life)を高めると共に、結果的に癌の治療効果も高める効果も発揮した。このように、癌治療の副作用を低減する医薬ならば薬効を確認するための患者群が存在し、臨床試験を行うことが可能である。そこでFGFCについても、癌患者の正常組織が放射線治療の際に受ける副作用を軽減する活性を評価することで有効性を解析することを計画している。3.1.2 承認を目指した生産系の確立癌治療の副作用の低減剤であっても、全身性の高線量被ばくの際の放射線防護剤であっても共通な重要課題は、医薬品として要求される品質を有する物質の生産と承認である。そこで、安定して品質の高いFGFCを、GMP(good manufacturing practice)基準に準拠した方法で大量に生産する系を確立する必要がある。そして、確立した生産系で得たタンパク質を用いて安全性の試験、有効性の試験を行い、医薬承認の申請に至ることが必要である。3.1.3 医薬承認のための段階 −安全性試験、有効性試験と医薬承認ヒトに使用する医薬品は安全でなくてはならない。そこで、医薬品の開発に当たって、最初に健康に対する重大な問題がないかどうかを動物実験によって確認する。この目的のため、動物で行う安全性試験においてもヒトにおける投与経路と同じ投与経路を採用することが求められる。FGFCのようなタンパク質製剤は消化酵素による分解や失活を受けやすく、また消化管における吸収と血中への移行の効率が極めて低いため経口投与は適さないと考えられている。そこで全身性に作用させたいタンパク質製剤は、ヒトでは一般的に静脈投与や皮下投与、筋肉内投与等が選択される。動物への安全性が確認されれば、次に、健康な成人のボランティアに対する第一相臨床試験によってヒトへの安全性が確認される。そして、安全性が確認できれば、癌治療の副作用の低減剤としての有効性を臨床試験によって示すことになる。安全性試験と有効性試験において医薬品として相応しい結果が得られた段階で薬務当局に申請を行図2 FGFCを実用的な放射線防護剤として開発するためのシナリオ第1段階と第2段階からなる。破線より上の薄緑色の部分は、基礎研究機関が遂行可能な部分。*PMDA: 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構:日本国内で薬事法に基づく医薬品や医療機器等の承認審査を所轄する機関。**WHO:世界保健機関:すべての人々の健康を増進し保護するため、国際連合憲章に沿った専門機関として設立された機関。***NIH:米国国立衛生研究所:米国の生命医学研究の拠点機関で、複数の専門分野の研究所と支援組織により構成される。研究費の配分機関でもある。ヒトの癌治療時の副作用低減剤ヒトの放射線防護剤としてのFGFCのWHOストックパイル収載放射線防護剤の開発に至るシナリオ関連研究機関・企業と連携PMDA申請のための臨床データ取得と申請放射線を用いた癌治療の副作用低減剤の開発基準に準拠した生産系の確立放射線防護剤の開発PMDA*申請に必要なデータ取得と申請WHO**やNIH***と連携した国際会議開催WHOストックパイル収載に必要なデータ取得高線量放射線の全身被ばくによる危篤障害に対する防護効果の動物実験での実証動物実験による安全性試験癌治療副作用低減の有効性試験12

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