Vol.7 No.3 2014
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研究論文:低環境負荷表面処理技術の開発(穂積ほか)−195−Synthesiology Vol.7 No.3(2014)面特性に複雑に影響するため、最適な溶液組成の決定にはさらに多くの時間を費やした。3.2 仮説の実験的検証我々は上記の結果をもとに、有機シランの鎖長と反応溶液中の濃度を制御することで、皮膜表面に露出するアルキル基密度が減少し、その運動性が高くなることで、皮膜表面に“Liquid-like”な特性が付与され、最終的にはつ液性が向上した、という仮説を立てた。そこで、この仮説を実験的に検証するため、これまでの知見をもとに、パーフルオロアルキル基の鎖長(CnF2n+1:n=1-8)の異なる有機フッ素系シランを原料に用いて同様の研究を行った[26][27]。静的接触角は表面エネルギーに支配されるため、長鎖(n=8)のパーフルオロアルキル基を持つ有機フッ素系シランを用いた方が、水や油に対して大きな静的接触角を示した。これに対し、はつ液性は鎖長の長さに依存せず、短鎖有機フッ素系シラン(n4)を用いても、長鎖有機フッ素系シランを用いて作製したハイブリッド皮膜と同等の表面特性を示すことがわかった。このように、はつ液性は、表面エネルギーには支配されず、表面官能基の運動性に支配されることが明らかとなった。前述の通り、長鎖有機フッ素化合物は今後、製造、使用が制限されるため、世界中の研究者が短鎖有機フッ素化合物(n4)によるはつ液性能の向上を試みているが、Liquid-likeな構造を導入していないため鎖長が短くなるほどはつ液性能は低下し、ほとんどが失敗に終わっている。これに対し“Liquid-like”をキーワードとする我々の手法を利用すれば、長鎖有機フッ素化合物を使用しなくても、十分なはつ液性を得られることを実験的に実証することができた。4 実用化に向けた取り組み表面化学は実学の科学である。身の回りの生活用品から工業製品に至るすべての物質には必ず表面/界面が存在する。物質との反応は必ず表面から始まり、また、表面/界面が何らかの機能発現に寄与していることは言うまでもない。それぞれの材料が持つ表面特性、また求められる表面特性もさまざまであることから、応用分野、処理方法も多岐にわたることは容易に想像できる。そこで我々は、プレス発表を効率的に活用し、成果を広く社会に発信することで、どのような産業分野の企業が我々のシーズ技術に興味を示すかを調査した。予想通り、自動車、電機、化粧品、印刷、食品、ありとあらゆる産業分野の企業から技術相談、試料提供依頼を受けた。その中で、シーズとニーズがWin-Winの関係で一致した一部の企業と、ノウハウおよび特許実施契約を締結することができた。幸いにも我々の技術は、企業の厳しいスクリーニングテストにも耐え、初回の技術相談からわずか1年という短期間で、量産規模でのコーティング技術を確立するまでに至った。我々の開発技術が短時間で実用化の一歩手前の段階まで来た理由としては、実用化に向けての戦略を研究開始前に立てたこと、特にはつ液性を従来の概念である静的接触角にとらわれず、動的接触角の面から捉え直したことが大きかったと考えられる。また、相手企業のフィルム作製やハードコーティング技術に加え、研究者の熱意、イノベーションコーディネーターの助言、知財、契約、広報等、産総研担当部門の支援があったためである。現在、相手企業は商品化に向け、市場マーケティングを進めている。(a)(b)(c)(d)(a)(b)(c)(d)60° 傾斜下地(ロゴマーク)ガラス板オイルミスト各種試験片油滴の噴霧図6 各種基板への着色したn-ヘキサデカンの噴霧前後の様子(a)今回開発したはつ液皮膜、(b)有機シラン単分子膜、(c) 有機フッ素シラン単分子、(d) フッ素樹脂 (不透明)。開発した皮膜上では油滴が滑落したが、その他の基板では油滴は表面に残存した。

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