Vol.7 No.3 2014
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研究論文:低環境負荷表面処理技術の開発(穂積ほか)−194−Synthesiology Vol.7 No.3(2014)材へ適用するには技術的に大きな障壁があった。3 はつ液表面実用化のための研究シナリオそこで我々は、第1種基礎研究で培ったはつ液処理技術の実用化を進めるためには、(1)凹凸構造に依存しない、(2)有機フッ素化合物を極力使用しない、(3)実用基板上へコーティングが可能、(4)塗装のような平易な方法でコーティングが可能、の4項目を満たす表面処理技術の開発が必要であると考えた。第1世代の方法では、(3)と(4)が課題となり、これを解決するためにさまざまな表面処理法を模索していた頃、ゾル−ゲル法の研究に携わっていた浦田が研究グループに加わった。穂積と浦田の研究の共通のキーワードは「有機シラン」という分子であった。穂積はこの「有機シラン」の蒸気を利用して薄膜や単分子膜を作製する技術・濡れ性の制御技術に関する研究を20年近く行ってきた[17]-[21]。一方、浦田は有機−無機ハイブリッド材料の有機密度を調整するために、この「有機シラン」を利用していた。ゾル−ゲル法は、アルコキシシランと呼ばれる分子を液中で加水分解・縮重合させることで、透明な無機固体を合成する方法である。反応時に有機シランを加えると、無機と有機が均一に混合された有機−無機ハイブリッド材料が形成され(図5b)、有機濃度も溶液組成によって容易に制御することができる[22]。また、本手法は基材を選ばす、ディップコーティングやスピンコーティング等により、密着性に優れた皮膜を簡便に作製できる等の特長がある。幾度かの議論を重ねた末、ゾル−ゲル法を用いれば、これまでの問題点を解決できるのではないかと考え、「反応溶液の有機シラン濃度を制御することにより、得られた皮膜の表面官能基の運動性を向上させる」という研究指針を決定した。3.1 はつ液性に優れたゾル−ゲルハイブリッド皮膜我々は手始めに、有機シランおよびテトラアルコキシシランの混合物からハイブリッド皮膜の作製を試み、有機シラン濃度とはつ液性の関係を調べることから研究を始めた。最初に、はっ水性シランカップリング剤として知られている、アルキル鎖長の長いオクタデシルシランを使用した。しかし、はっ水性は得られたものの、得られた皮膜表面にはマイクロメータースケールの凹凸構造があるため、表面エネルギーの低い油に対しては完全に濡れ広がってしまうことがわかった。そこで、アルキル鎖長の異なる分子を用いて同様の研究を続けたところ、ある一定のアルキル鎖長よりも短い有機シランを用いた場合、特定の濃度条件下で成膜することで、はつ液性に優れたハイブリッド皮膜ができることを見いだした[23]-[25]。この皮膜は平滑性、透明性に優れ、その表面は、液滴の表面エネルギーに依存せず、水、動・植物油、アルカン等、さまざまな液体を滑落させる機能があることが明らかとなった。特に、有機シランや有機フッ素化合物単独で作製した単分子膜、フッ素樹脂より優れたはつ油性を示すことが明らかとなった(図6)。このハイブリッド皮膜は常温で硬化し、基材の制限もなく、特別な前処理なしでも比較的良好な密着性が得られるという特長があるだけでなく、表面に付着した指紋を水で簡単に洗い流すことができるという優れた機能を持っていることもわかった。このような指紋除去能は、スマートフォンやタッチパネルディスプレー等の表面処理としての利用が期待できる。また、原料に有機フッ素化合物を使用しないため環境負荷も低く、コストも大幅に削減することができる上、反応溶液の液寿命が約半年あることも確認した。これらは、実用化を目指す上で重要な利点となった。しかし、ゾル−ゲル法は、化学種、組成、成膜条件等多くの因子が皮膜の表SSSSSSSSSSSSCnH2n+1COOHCnF2n+1C2H4Si(OR)3CH3Si(OR)3CnH2n+1Si(OR)3Zr(OR)4Si(OR)4(b)有機-無機混合コーティング重合反応空間制御されたユニットナノスペーサー“Liquid-like”な振る舞いをする理想的な表面分子運動が束縛された“Solid-like”な表面(a)単独コーティング単分子成分基材塗膜SSS+図5 ゾル−ゲル法を用いたはつ液皮膜の開発指針および化学組成のバリエーション(a)単分子成分のみから予想される表面状態、(b)有機−無機コーティングより予想される表面状態。

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