Vol.7 No.3 2014
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研究論文:低環境負荷表面処理技術の開発(穂積ほか)−193−Synthesiology Vol.7 No.3(2014)構造内部に汚れが沈積しやすい、(3)可視光を散乱するため、透明性を確保することが困難、(4)油滴のような表面エネルギーが小さな液滴は、凹凸表面に濡れ広がる(構造内部へ浸透しやすい)ため、はつ液性が低下する。つまり、液滴の表面エネルギーの低下とともにはつ液性が低下する、といった欠点がある[1]。また、有機フッ素化合物に関しては、(1)製造に必要な蛍石の価格変動、(2)合成工程が多いため高価、(3)ある温度以上になると腐食性の強い有毒ガスを発生する、(4)難分解性のため、生体内や環境中に残留しやすい、などの問題がある。このような背景から、最近では、長鎖有機フッ素化合物であるパーフルオロオクタン酸(PFOA)やパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)類は、製造や使用の規制対象であり、代替材料の開発が急務となっている。2.5 現状分析このように、第2、3世代のはつ液表面の作製には、凹凸構造および有機フッ素化合物が必要不可欠であるため、技術的、コスト的、環境的に大きな制約があり、実用化を阻む原因になっていると結論づけた(図4)。そこで、我々は、第1世代の平滑なはつ液表面に着目し、「表面官能基が“Liquid-like”な振る舞いをする表面をいかに実現させるか?」に焦点を絞り、研究を開始した。まず、我々は室温で液体状である溶融高分子の高分子鎖の流動性や運動性に着目した。シリコーン(polydimethylsiloxane: PDMS)は、ガラス転移点が低い(約-120 ℃)ため、室温では液体である。また、基板に固定化されたPDMS表面も、バルクと同じ流動特性を引き継ぐことが知られている。分子量が小さいほどガラス転移点が低いため、分子量の小さいPDMS表面は、より“Liquid-like”な振る舞いが期待できると考えた。そこで分子量の異なるPDMSを共有結合にてシリコン基板表面に固定化し、各種プローブ液体(水、n-ヘキサデカン、n-ドデカン、n-デカン)の静的接触角の変化を調べたところ[15][16]、プローブ液体の表面エネルギーが小さくなるに従い、静的接触角の値も小さくなることがわかった。一方、各プローブ液体の静的接触角の値はPDMSの分子量に依存することなくおよそ一定であることがわかった。これは、PDMSの分子量は異なっても、得られる表面の化学的特性は同じであるためと考えられる。これに対し、はつ液性はPDMSの分子量(高分子鎖の流動性、運動性)に大きく依存した。すなわち、分子量が小さくなるに従い、いずれのプローブ液体も接触角ヒステリシスが小さくなり、それに伴い転落角も小さくなることがわかった。PDMSの分子量が小さい場合には、水だけでなく、アルカンに対しても接触角ヒステリシスは小さくなる。例えば、微小油滴(3 μLのn-デカン)に対しても転落角は小さくなり(〜1°)、優れたはつ油性を示す。この値は、静的接触角が160°を超えるはつ液表面上のn-デカン(5 μL)の転落角(5.3°)よりもはるかに小さい。これに加え、プローブ液体であるアルカンはPDMSに対して可溶であるため、PDMS鎖とこれらの液体間でいわゆる“Blended liquid/liquid interface”を形成する。これらが可塑剤のような役割を果たし、PDMS鎖が膨潤することでPDMS鎖の動きが円滑になったことが接触角ヒステリシス減少の原因であると考えている。このように、第1世代の表面処理技術の概念を基盤として、我々が独自に開発した表面は、第2、3世代のはつ液表面と同等、あるいはそれ以上の表面特性を示すことがわかった。しかし、我々の方法では、処理可能な固体表面が、シリコン基板やナノレベルで研磨された金属基板等に限定されており、プラスチックをはじめとするさまざまな実用基 (a) (b) 第1世代コスト環境負荷化学物質による3つの推進力Liquid-like表面単分子膜技術企業浦田穂積ゾル-ゲル法企業の持つ要素技術(フィルム作製、ハードコーティング等)製品化研究技術的課題第3世代第2世代第2種基礎研究第1種基礎研究基材基材基材図4 我々の研究戦略(a)従来法を用いた場合の実用化への障壁、(b)今回開発した手法の利点。

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