Vol.7 No.3 2014
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シンセシオロジー 研究論文−190−Synthesiology Vol.7 No.3 pp.190-198(Aug. 2014)1 はじめに固体表面に付着した液滴(水や油)は、表面の腐食や劣化、外観の悪化、視認性低下等の原因となり、装置や機器の安全性や信頼性を著しく損なうことから、液滴の除去性能に優れた表面処理の開発が盛んに行われている。液滴の除去性能は、従来、液滴の接線と固体表面とのなす角度、いわゆる“接触角”(水をプローブに使用した場合は水滴接触角という。また、ほとんど静止した状態での接触角ということで静的接触角とも言う。)の大小のみで評価されてきた。接触角は固体表面の最外層(1 nm程度)のみの物性を反映しており、この値が大きい表面は一般的に疎水性表面または疎油性表面、小さい表面は親水性表面または親油性表面と認識されている。これまでの報告の多くは、静的接触角の大小で液滴除去性能の良し悪しを判断してきた。しかし、図1に示すように、静的接触角が150°以上でも、表面状態によっては、基板を90°以上傾けても液滴が付着したまま動かない場合がある。つまり、静的接触角と液滴除去性能は必ずしも一致するわけではない。一方、液滴除去性能を示す別の尺度として、動的接触角(固体表面上を液滴が動く状態を想定した、液滴の前進/後退接触角およびこの差である接触角ヒステリシス)や、ある一定量の液滴が固体表面を転落する臨界角(転落角)がある。これらの接触角ヒステリシスや転落角は、液滴除去性能をより正確に反映したものであり、実際に接触角ヒステリシスや転落角が小さいほど液滴の除去性能に優れていることが認められている。すなわち、固体表面の液滴除去性能は、従来の静的接触角ではなく、動的接触角等を指標として評価すべきであることが示唆される。穂積 篤*、浦田 千尋液滴が残りにくい固体表面の開発は、汚れ付着防止、防食性の向上、目詰まり防止、液流制御等、さまざまな工業分野で望まれている。この論文では、新規はつ液処理技術の短期実用化を目指した我々の研究戦略を紹介する。既存技術を類型化し、研究開始前に綿密な戦略を立てることで、第1種基礎研究から第2種基礎研究、実用化への移行時間を大幅に短縮することができた。また、広報活動や企業への試料提供を通じ、我々が開発したはつ液処理技術を活かすことが可能な要素技術を持つ企業との出会いにより、わずか1年足らずで量産規模でのコーティング技術を確立するに至った。低環境負荷表面処理技術の開発− 有機フッ素化合物および凹凸加工を用いない新規はつ液処理の実用化を目指して −Development of non-adhesive and dewetting solid surfaces has attracted much attention in a wide variety of industrial applications, because such surfaces can prevent staining, corrosion and clogging, and permit control of droplet motion. In this paper, we introduce our strategy for R&D, including classification and analysis of previous work, and establishment of a guiding principle for R&D towards practical and rapid realization of our novel oleophobic coating. Our R&D strategy successfully reduced the transition period from Type 1 to Type 2 Basic Research and its practical realization. Furthermore, by means of seeds-needs matching between AIST and companies through PR activities and sample offers, we were able to establish coating technology on a commercial scale within one year.キーワード:はつ液処理、Liquid-like表面、有機フッ素化合物、低環境負荷Keywords:Oleophobic treatment, dynamic dewettability, liquid-like surface, perfluorinated compounds, environment friendliness産業技術総合研究所 サステナブルマテリアル研究部門 〒463-8560 名古屋市守山区下志段味穴ヶ洞2266-98Materials Research Institute for Sustainable Development, AIST 2266-98 Anagahora, Shimo-Shidami, Moriyama-ku, Nagoya 463-8560, Japan *E-mail: a.hozumi@aist.go.jpOriginal manuscript received October 30, 2013, Revisions received January 10, 2014, Accepted January 14, 2014Development of environmentally-friendly surface modification technology- Practical realization of novel oleophobic coating without relying on perfluorinated compounds and surface texturing -

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