Vol.7 No.3 2014
41/76

研究論文:内部熱交換式蒸留塔(HIDiC)の技術開発(片岡ほか)−177−Synthesiology Vol.7 No.3(2014)す。第二期プロジェクトでは、木村化工機(株)が開発した充填塔式HiDICを使用されていますが、充填塔式はどのような位置づけであり、また、クリーン系とはどのようなものを指し、どの程度の省エネルギーが期待できるのですか。一方、この論文のテーマである汚れ系とはどういうものであって、なぜ、充填塔式では対応できないのかについて、解説をお願いいたします。また、HiDICにつながるアイデアはMahらによって発表されたが、それが誰にも注目されず、廃案のような状態であったのはなぜでしょうか。どこに技術的に困難な課題があって、あきらめられていたのでしょうか。回答(片岡 邦夫)ご質問を考慮してこの論文に加筆・追記しました。まず、クリーン系ですが、第一期、第二期プロジェクト当時は先行する大学等での蒸留実験でよく研究されていたのは充填塔式でありましたので、プロジェクトの研究対象は充填塔構造のHIDiCでスタートし、集積したデータも充実していました。残渣物(ピッチ等)を含まない石油化学系のハイドロカーボンで重合しそうな物質を含まない混合物は腐食も汚れもなく、固形分残渣もないため、充填物の詰まりがなく、加熱面への伝熱阻害物質の粘着・固着もないため、HIDiCパイロットプラントの候補として充填塔式が適していると判断されました。一方、汚れ系とは、蒸留により処理すべき原料に、もともと固形分(例:溶剤中の顔料や触媒等の微粒子、炭化物粒子、灰分等)を残渣として含んでいたり、モノマー溶液等蒸留プロセス中で(重合や固化反応等により)粘着性が増加したり、固形分になる成分を含んでいたり、温度が上がると結晶(例えば、硫酸カルシウム)が析出する灰分を含んでいたりするものを指しており、対象物は多種多様です。これらの汚れ系原料では充填物は目詰まりが起きやすく、一旦目詰まりするとそれを解消する洗浄等のメンテナンスが非常に困難です。このため、新技術の開発が必要となりました。Mahらの論文が廃案状態であった原因を詳しく分析したわけではありませんが、1)蒸留工学分野の人にとってはこの論文は目に留まりにくい場での発表であったこと、2)蒸留プロセス中の蒸気の成分を考えると、機械圧縮する大排気速度のコンプレッサをプロセス中に導入することには防爆問題等の危険性もあり違和感があったこと、3)プロセスシステム工学が専門のMahらの論文では内部熱交換を伴う蒸留塔の構造的イメージが示されておらず、各段を単なるブラックボックスの連結のシステムとして示されていただけなので、蒸留工学の研究者では実現の可能性が読み取れなかったためと、考えています。議論3 技術の独創性質問(景山 晃)蒸留塔第2塔のコンデンサの凝縮液を第1塔に還流することが独創的な特徴であると述べ、また、CF-HIDiCの第2塔に当社オリジナルの“リフトトレイ”を組み込んだことが述べられていますが、これまで、類似の技術が世の中に存在しなかったという意味でしょうか。技術の独創性についてもう少し詳しく論じていただけませんか。回答(片岡 邦夫)この論文に追記しましたが、第2塔(HIDiC塔)の回収部では、内部熱交換により還流液を蒸発させることによりリボイラの熱負荷を軽減しようとしているつもりなのに、回収部塔頂にコンデンサを設けてわざわざ凝縮させることはこれまでのHIDiC理論ではナンセンスな考えであり、マイナス効果であるとの異論が最初噴出しました。しかし、第1塔には塔頂コンデンサはないが、HIDiC塔の回収部塔頂コンデンサの凝縮液を第1塔に戻せば、このコンデンサは実質的に第1塔のものであると考えられること、これにより第1塔は第2塔濃縮部塔底へ高圧蒸気を送れる通常の蒸留塔と見なすことができるが省エネ効果はないこと、その代わりに、圧縮機がなくても第2塔が非常に大きな省エネ効果のあるHIDiC塔になり得ると考えれば、当初、異論として出された問題点を解消できることなどを主張し、それをシミュレーション解析で示すことにより、アドバイザー会議でも理解・納得してもらえました。これも大きなブレークスルーの出来事でした。この発想は、蒸留部門の専門家ではない伝熱工学屋でなければ出てこなかったと考えており、いわゆる発想の転換がキーポイントであったと思っています。また、リフトトレイは開発の時点では世界初と考えています。多孔板2枚を重ねて1セットのリフトトレイは塔内蒸気流速の増加に応じて上側のトレイが浮上し、上下のトレイで孔配列をずらしてあるため開孔率が大きくなり、圧損が増加しないように働きますので、「自律的に圧損制御」できるFluidics(流体素子)のようなユニークなトレイで、現在も活躍しています。この論文に少し加筆しました。議論4 異なる技術領域の融合質問・コメント4(景山 晃)この論文ではこれまでの化学工学の専門性の範囲を越えて、プロセスシステム工学と伝熱工学との融合を図った結果、総括伝熱係数と伝熱面積の積に着目してデータ集積したことが課題突破の重要な方法論となったことが述べられています。この領域融合はどのような議論の過程で出てきたのですか。既存の領域を越えることの重要性を示す具体例として補足などを示していただくことは可能ですか。回答(片岡 邦夫)この論文でも触れていますが、プロセスシステム工学の専門家、実際の蒸留プラントの専門家と著者ら伝熱工学の専門家で構成するアドバイザー会議を設け、これまでのプロセスシステム工学と気液平衡論により体系化された蒸留工学では何故不十分なのか、また、その問題点の把握とブレークスルーを期待できる伝熱工学(非平衡論に立脚し、伝熱面の現象論を取り扱う)的なアプローチをいかに融合するかについて、両論の専門家の長い議論が行われました。これはシンセシオロジーの観点からも有益な議論であったと考えられます。議論の結果、いかに実際に応用しやすいパラメータで簡易なデータベースを構築するかで歩み寄り、通常の蒸留塔ではなく、HIDiCそのものの特性パラメータである総括伝熱係数と温度差を圧縮比で整理する伝熱工学を基にした使いやすい蒸留システム設計論を構築することができました。もう少し詳細に述べると、蒸留プロセスは蒸気相の高沸点成分が凝縮して放出する潜熱を液相中の揮発しやすい低沸点成分がもらって蒸発する、すなわちもともと熱と物質の同時移動で起きる現象です。この観点から、半世紀前にAIChE Research Committeeがガス吸収と類似の物質移動(非平衡の移動論)の考え方で棚段塔の蒸留塔の「設計法と解析方法の構築」にチャレンジ(Tray Efficiencies in Distillation Columns, 1958, Bubble-Tray Design Manual, 1958)しています。これは当時としては画期的な素晴らしいものでしたが、現象が複雑でまとめが難しいため、その成果が応用展開されませんでした。すなわち、現在でも蒸留塔の解析と設計理論は移動論ではなく、気液平衡論と理想段モデルに立脚しているのが実態です。内部熱交換がなされるHIDiCシステムでは、平衡論と非平衡論とのかい離がさらに一段と大きくなります。これを突破するため、HIDiCにおいては、プロセスシステム工学的なプロセスシミュレータを使用しながらも、新たに構築したHIDiCデータベースから総括伝熱係数と段効率を仮定することにより、設計手法を明確に確立できました。ベンチプラントの設計仕様は、この設計手法に基づいて策定し、有効に応用できたことが本プロジェクトを成功に導いたものと思っています。

元のページ 

page 41

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です