Vol.7 No.3 2014
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研究論文:内部熱交換式蒸留塔(HIDiC)の技術開発(片岡ほか)−164−Synthesiology Vol.7 No.3(2014)その選定理由は当時、大学等の蒸留研究には主に充填塔式が用いられていたせいで、第一期、第二期プロジェクトで先に開発がスタートして議論が進んでいた充填塔式HIDiCのデータが充実していたこと、伝熱面での還流液による濡れを旨くやれば大きな省エネ効果も期待できること、適用対象のシクロペンタン精製プロセスはクリーンな石油系12成分からなる混合ガソリンで内部で反応も起きないために充填物の目詰まりや加熱面でのファウリングの恐れがないことであった。その後、2006年より2年間、このHIDiC技術の実用化・普及を目的として、産業技術総合研究所主導のHIDiCコンソーシアムによる共同研究が実施された。しかし、HIDiC技術の省エネ効果の大きさは一般に認知されたものの、上記パイロットプラントに続く実用化の実績がなかなか挙がらず、普及への道が閉ざされていた。その原因は、①石油化学産業は通常、高温熱分解のクラッカーを所有しており、この高温のエネルギー源をカスケード的に有効に使っているため、蒸留に要する温度レベルの水蒸気は大量に余っている実情があった。②開発されたHIDiCは高温プロセス中の蒸気に防爆が必要な大きな排気速度の圧縮機を必要とするため、例えばバイオマスのような汚れ系混合物(発酵残渣となるリグニン、グルカン、灰分、発酵に使われた酵素タンパク質等々を含む)を対象とすることが困難であり、他の産業への展開が困難であった。そこで、当社では、蒸留プロセス中の蒸気に圧縮機を使用しなくてもHIDiCのヒートポンプ効果を応用できる、圧縮機なしのHIDiCシステムを考案し、特許[4]を取得し、その基盤技術開発のために2007年から3年間、当社独自でNEDO先導研究プロジェクト[5](以下、第三期プロジェクトと呼ぶ)を実施した。この結果、圧縮機なしでも、目標とした30 %以上の省エネ率を十分に達成できることを確認した。この成果を基に、化石資源に代わる新エネルギー源のバイオマスエネルギーの開発において、その製造コスト削減には使用酵素・酵母のコストだけでなく、分離濃縮の蒸留コストの削減がキーポイントになっていることに着目することにより、NEDOのバイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)の中の「セルロースエタノール高効率製造のための環境調和型統合プロセス開発」(2008~2012)[6]に参画して、発酵モロミからのエタノール濃縮プロセスにHIDiC技術を応用する省エネ技術開発を担当することとなった。(以下、第四期プロジェクトと呼ぶ)汚れ系であるバイオエタノールの蒸留プロセスという困難な対象にHIDiC技術を応用したい一心で挑戦し続け、やっと2012年にベンチプラントを建設することができた。その試運転の結果、2013年2月に省エネ目標を達成できただけでなく、将来の応用展開の可能性を示すことができたので、そこに至る経緯に沿って技術開発[7]の進め方の論文として報告する。2 技術開発プロジェクトの進め方についてこの論文の技術開発の詳細については、3章、4章で述べることとし、Synthesiologyの観点に立って、第2章で、この技術開発をいかに進めたか、また、その道の難題が立ちはだかる分岐点をいかにブレークスルーしてきたかを分析し、見直しをして、技術開発の方法論の具体例として抽出することとした。2.1 問題点の把握と目的設定HIDiC開発が関わるNEDOプロジェクトNo.P02020「内部熱交換による省エネ蒸留技術開発」(第二期プロジェクト)の当初の課題は地球温暖化抑止のための京都議定書から発してきたものであり、国家のエネルギー・環境政策の重要問題であった。化学工業の重要プロセスの一つであり、エネルギー消費が大きい蒸留プロセスの消費エネルギーを節減することができれば、原油輸入量を減らせるだけでなく、CO2排出量の削減にも大きく貢献できることから本プロジェクトは立ち上げられた。化学プロセスの省エネ技術としては、石油ショック後のフローシステムの無駄を省く合理化技術やプロセス改良、その後の多重効用技術等が当時すでに実現していたが、省エネルギーのためのプロセス改善が相当に進められていた日本の化学工業にとって、さらに大幅なエネルギーの節減を迫られても、簡単な方法はなく、抜本的な技術開発が必要であった。そこでチャレンジしようと着目されたのが、ヒートポンプ原理を応用した内部熱交換式蒸留システムであった。このプロセスシステムの工学的アイデアはMahら[8]によって発表されたが、誰にも注目されず、廃案のような状態であった。その原因はシステム工学的解析のみの論文であり、トータルシステムはサブシステムの繋がりを単なるブラックボックスの連結で表現されており、蒸留工学分野からは実現の可能性があるかどうか、あまり理解されず、議論もされず、実際の蒸留塔の具体的な塔内構造もイメージしにくかったこと、また回収部から濃縮部へ入る蒸気を防爆で大きな排気速度の圧縮機で圧縮することには蒸留工学の立場からは違和感があったこと、などが考えられる。それに気づいた京都大学の故高松武一郎教授が音頭をとり、これを何とか実用化するために、技術開発プロジェクトとして立ち上げようとされたのが発端であった。最初に提案された標準型内部熱交換式蒸留塔HIDiC[8]の構造とそのフローは二重管式で表すと図1のようになる。原料供給段より下にあるべき回収部の頂部から排出してき

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