Vol.7 No.3 2014
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研究論文:自己抗体解析のためのプロテインアレイ開発(川上ほか)−155−Synthesiology Vol.7 No.3(2014)2 ヒトタンパク質発現リソースの構築とその利用1998年から開始された通商産業省(現経済産業省)のヒト完全長cDNAプロジェクトを基盤として、我々は2000年からNEDOタンパク質機能解析プロジェクトにおいて、(1)ヒトタンパク質発現リソース(HUPEX:Human Proteome Expression-resource)、(2)ハイスループットタンパク質合成技術、(3)発現リソースデータベース(HGPD:Human Gene and Protein Database)の整備をスタートさせた。当時、ゲノムDNA配列を解読するためのヒトゲノム計画が国際的に進められていたが、日本は来るべきプロテオミクスの時代を先取りして、ヒトタンパク質の研究環境の整備を行い、ヒトタンパク質発現リソースの構築、データベース構築を行った[2][3]。国家プロジェクトとしてヒトタンパク質の機能解析、タンパク質相互作用、タンパク質構造解析等を大規模に行うための技術基盤の整備を行った。その結果、ヒトタンパク質発現リソースはさまざまな国家プロジェクト研究、企業との共同研究、研究機関や大学とのアカデミックな共同研究等において利用され、それぞれの分野で大きな成果を生んでいる。その代表的成果が京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長との共同研究(JST山中iPS細胞特別プロジェクト)であり、新しいiPS細胞誘導促進遺伝子Glis1の発見につながった[4]。さらに、岐阜大学医学部との共同研究では抜歯した歯の中にある歯髄細胞から高効率にiPS細胞を誘導促進する因子の発見、慶応大学医学部との共同研究では心臓の線維芽細胞から心筋細胞を作り出すダイレクトリプログラミング促進因子の発見等、再生医療に役立つ因子探索において数々の成果を生んでいる。また、創薬スクリーニング系としてタンパク質相互作用のin vitro可視化技術の開発、質量分析機による定量プロテオミクスのための標準タンパク質の生産等、それぞれの分野で大きな成果を生んでいる。こうした研究成果は、当初のヒトタンパク質リソース整備の構想の中で、リソースの活用として期待されていたものであった。これまでに我々が構築してきたヒトタンパク質リソース技術は、基礎的また産業的プロテオーム研究が円滑に進行することを支援するためのものである。しかし、このように一つの領域を究めてゆくと、当初は予想していなかった新しい視界が開けてくることがある。我々はプロテオーム領域の山を登って来て、振り返ったとき、プロテオームを構成するタンパク質群を抗原として考えると網羅的な抗体領域を調べることができると気付いたのである。図1に示すようにプロテオームからイムノーム(免疫系の全体)を調べることができると考えたのである(抗原がすべてタンパク質ではないが、多くの割合を占めている)。すなわち、ヒトタンパク質発現リソースを活用して血液中の自己抗体を網羅的に解析し、診断に利用するというアイデア(図2)は、当初、我々は予想をしていなかったことである。しかし、我々は世界のどの研究者よりも多くのヒトタンパク質を抗原として利用でき、それを用いて血清中に抗体が存在するか否かを調べることが可能である。血清中の自己抗体を診断に利用するアイデア自体は、多くの研究者が論文に発表している[1]。しかし、抗体を検出するための抗原を調製することが困難であったため、これまでは網羅的に自己抗体を解析することは困難であった。現在、我々はHUPEXを利用することで血清中に含まれている自己抗体のプロファイリングを世界で最も正確に行うことができる。自己抗体プロファイリングを実現するためには、単にヒトタンパク質発現リソースだけではなく、網羅的タンパク質発現技術、タンパク質のアレイ化技術、抗体の検出方法の確立が必要である。これらの詳細について以下の項目で述べる。3 自己抗体のプロファイリングを可能とするプロテインアレイの開発3.1 網羅的なヒトプロテオーム発現リソースとタンパク質発現技術我々は、汎用的クローニングシステムであるGatewayクローニング技術を導入し、cDNAのOpen Reading Frame(ORF)の両端に部位特異的組換え配列を付加したプラスミドDNA(エントリークローン)を作製して、タンパク質発現リソースを構築した[2]。Gatewayクローニング技術は試験内で組換え酵素によって部位特異的DNA組換えを行うことにより、エントリークローンと発現ベクター(デスティネーションベクター)を混合するだけで発現クローンを作製することができ、ハイスループットなタンパク質発現を行う際には最適なDNA組換え技術である[5]。このリソースはヒト遺伝子の約80 %をカバーする世界最大のタンパク質発現リソースであり[2]、HUPEXと命名した。エントリークローンは、一つのcDNAに対してC末端がネイティブタンパク質と同じアミノ酸配列を合成可能なエントリークローン(N-type)とC末端にタグを融合することができるようにストップコドンをセゲノムトランスクリプトームプロテオームイムノームDNARNAタンパク質抗体図1 プロテオームからイムノームへ

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