Vol.7 No.3 2014
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研究論文:放射線による生体障害を軽減する高安定化細胞増殖因子の開発(今村)−148−Synthesiology Vol.7 No.3(2014)の細胞外部分がFGF分子を特異的に認識・結合する。すると、受容体の細胞内部分に内包されるチロシンキナーゼという酵素が活性化する。このようにして、チロシンキナーゼ型FGF受容体は細胞外のFGFの存在を細胞内のシグナルとして伝達する。そこで、FGFの活性を分子レベルで精密に記述するためには、これら受容体を自在に操作できることが必要である。チロシンキナーゼ型FGF受容体遺伝子として4種類の遺伝子が存在し、これらの遺伝子は計7種の主要なFGF受容体タンパク質をコードする。そこで、各々の受容体によるシグナル伝達を解析するための細胞ベースのスクリーニング系を構築した。その実験系を用いて受容体特異性を解析した結果、驚くべきことに、基本型FGFCは、FGF1と同様にまたはやや強く7種すべてのFGF受容体タンパク質を活性化しうる性質を有していることが分かった。これは、他の天然型FGFには無い性質である(図7)[13]。一方、基本型FGFCの生物活性は、ヘパリン糖鎖の共存によって大きく左右されることがないという性質においてFGF2と類似であった。次に、FGFの活性を発揮するために必要なタンパク質の三次元構造の安定性を融点によって調べた。すると、調べた条件下で、基本型FGFCの融点は、FGF1に比べて5度ほど高いことが判明した。これらの結果から、基本型FGFCがFGF1よりも安定性が高く、医薬品として優れた特性を持っていることが強く示唆された。7.4 医薬用途を見据えたFGFCの構造の至適化基本型FGFCが特異性の広い生物活性を持つ上に安定であることがわかり、医薬用途に有望な分子であることが明らかになった。そこで、分子形のさらなる至適化を試みた。すなわち、最初に作製したFGFC分子群では当時の技術的制約のために追求できなかったヒトへの抗原性を最小化することと、タンパク質分解酵素耐性を最大化することの二つを目標として、詳細構造の至適化を図った。当初の分子形は、キメラ化の際のつなぎ目を確保するために遺伝子に制限酵素の認識配列を導入しており、一部のアミノ酸の置換が不可避となっていたためヒトへの抗原性の懸念を持っていた。しかし、現在の分子工学技術ではより自在にアミノ酸配列を設計できる。そこで、プロトタイプのFGFCの一次構造をベースとして、FGF1またはFGF2以外のアミノ酸配列が一切含まれないようにするなど、複数種の分子を作製した。この中で、タンパク質分解酵素による分解に対して、最も耐性が高い分子を選択した。これが現在のFGFCである。このようにして、医薬用途を見据えて分子構造を至適化したFGFCを確定した(図8)[13]-[15]。この論文では以降この分子をFGFCと呼ぶ。尚、このFGFCの配列内部には、元来ヒトに存在する2種類のタンパク質をキメラ化するために人工的に導入したアミノ酸は無い。そのため、ヒトに投与した場合の抗原性は最小限であることを期待できるが、実際の抗原性試験はまだ行われていない。この試験は安全性試験の一項目として行うこととなる。8 放射線防護剤候補としてのFGFCの大きな可能性8.1 腸管障害の防護(事前投与による予防)高線量の放射線による生命の危機の主要な原因として、腸管粘膜上皮細胞の幹細胞叢(クリプト)の死滅に伴う腸管機能の喪失があげられる。なぜならば、この細胞が絶え間なく新生して細胞の新陳代謝を支えることで腸管はその構造と機能を保っているからである。前述のように、天然型FGFの中で最も放射線防護効果の高いものはFGF1であった。そこで、FGF1とFGFCの防護活性を比較した。実験動物マウスにいずれかのFGFを腹腔内投与し、24時間後に10 Gyのガンマ線照射を行い、3.5日後にクリプトの生細胞数を計測した。その結果、FGFC投与群ではFGF1投与群よりも有意に多い細胞数を示した。当然、何も投与しなかった対照群よりもはるかに多かった。したがって、放射線腸管障害の防護活性において、FGFCは図8 FGFCの一次構造FGF1に由来する配列とFGF2に由来する配列からなる。FGF2FGF1FGF156782314910FGFR1c受容体のD2ドメインと相互作用すると推定されるアミノ酸残基 FGFR1c受容体のD3ドメインと相互作用すると推定されるアミノ酸残基

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