Vol.11 No.2 2018
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研究論文:我が国における5万分の1地質図幅整備(宮崎)−60−Synthesiology Vol.10 No.2(2018)産総研になってからの地質図幅整備の全体シナリオがなかったかというとそうではない。国の知的基盤整備計画や産総研第1-2期中期計画(2001-2009年)の全体シナリオでは、昭和29年(1954年)に開始された20万分の1地質図幅の全国完備が間近であったこともあり、これが図幅整備全体を駆動するシナリオになっていた。2010年には56年の歳月をかけた20万分の1地質図幅の全国完備が達成された[6]。産総研第1-2期(2001-2009年)の間、20万分の1地質図幅は改訂版も含めて34枚が出版されている。戦前に完備された20万分の1地質詳図と違い、20万分の1地質図幅には戦後日本における地質学的理解の進展が盛り込まれている(図7)。さらに、産総研第3期(2010-2014年)では、20万分の1地質図幅124区画全てにおいて日本列島の地質を最新の情報に更新するとともに、全国統一凡例の階層化と構造化を実施したシームレス地質図(次世代シームレス地質図)を完成させた。試験公開を経て、次世代シームレス地質図の本格公開が始まったのは2017年度からである。これにより、シームレス地質図による地質情報のオープンデータ化、20万分の1地質図幅による地質図の全国完備、5万分の1地質図幅は日本列島を代表する地質が分布する地域の標準を確立という役割別に地質図を体系的に整備していく枠組みが完成できた(図8)。今後の地質図幅の全体シナリオを考える場合、全ての地質図の基礎となる5万分の1地質図幅整備計画が重要になる。これを議論する前に、個別の5万分の1地質図幅作成のシナリオを概観する。これは個別シナリオとして位置づけられ、地質図幅の品質を保つことに関係している。また、個別の地質図幅研究から生み出される新たな知見は研究論文として公表され研究者個々の知的探求心から図幅整備を駆動している(図8)。4 5万分の1地質図幅作成の個別シナリオと要素4.1 個別シナリオのアウトライン前章までで、明治以降の地質図幅整備の歴史と全体シナリオの変遷を見てきた。それでは、個々の5万分の1地質図幅を作成するための要素とは何か、また、その要素は地質図幅を作成するためのシナリオの中でどのように統合されていくのかを以下で見ていく。5万分の1地質図幅を作成するための要素は、大きく野外地質調査と室内実験の二つに分けることができる(図9)。野外地質調査では、露頭観察、ルート調査、ルート柱状図・断面図作成を行い、地質構造を推定する。このような地味な作業を複数のルートで行っていく。推定した地質構造は逐次新たな地質調査の結果を反映して書き直される。多くの場合、対象とする地層や岩体の形成後の地殻変動による断層運動、褶曲作用等により地質構造が複雑化しているため、初期に行った少数のルート調査で推定し特定観測地域観測強化地域5万分の1地質図幅出版済み5万分の1地質図幅整備状況AB図6 5万分の1地質図幅整備状況(2013年時点)図7 20万分の1地質詳図と20万分の1地質図幅の比較A. 1884年発行の20万分の1地質詳図「伊豆」。B. 2010年発行の20万分の1地質図幅「静岡及び御前崎(第2版)」と2015年発行の20万分の1地質図「横須賀(第2版)」を地質図Navi上でモザイク表示したもの。現行の20万分の地質図幅では、20万分の1地質詳図「伊豆」発行以降の約120年間の地質学的知見の蓄積により地層・岩体区分がより詳細にかつ正確になっている。

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