Vol.11 No.2 2018
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研究論文:我が国における5万分の1地質図幅整備(宮崎)−57−Synthesiology Vol.10 No.2(2018)送幹線道路建設の事例では、該当地域の地質から剪断強度を推定し、斜面崩壊の防止対策が必要な場所と不要な場所を決定した(図3)。道路建設では、防止対策が必要な場所を避けることで、道路建設による斜面崩壊の起きる確率と防止対策費から回避できる予測防止対策費を推定している。どちらも場合も、地質図から推定する透水率および剪断強度の値には不確実性が伴う。前述したように、該当地域に存在する地質図が高品質・高精度であれば、不確実性は小さくすることができる。したがって、新しい地質図と古い地質図を用いたときの回避できる予測損失額と予測防止対策費の差から新しい地質図を作成する費用を差し引いた便益を算出している。その額は上記2例に関して112万ドルから350万ドルと予測された。当然のことながら、廃棄物処分場立地や輸送幹線道路建設以外に地質図が利用されれば便益はさらに増大することになる。ここで重要なことは、高品質・高精度の地質図が社会的に大きな便益を生みうると言うことである。以下では、我が国おける地質図幅整備の歴史と5万分の1地質図幅整備計画、さらに高品質・高精度の5万分の1地質図幅作成の過程を見ていくことにする。3 地質図幅整備の全体シナリオ3.1 20万分の1地質詳図日本における地質図の作成は明治時代に始まる。内務省地理局地質課ができたのが明治11年(1878)年で、西南戦争の翌年である。明治12年(1879年)には、内務卿伊藤博文宛に、国として地質調査が農業・鉱業および冶金学・土木建築学にいかに有益で、各種地下資源の開発にいかに必要であるかという意見書が出されている[3]。諸外国の地質調査所の設立を見てみても、英国地質調査所が1835年、米国地質調査所が1879年であり、国際的に見ても基盤情報としての地質図の重要性が認識されていた。日本における地質調査所の設立は明治15年(1882年)である。地質調査所では国内の地質図の整備が開始された。地質調査所および現在の地質調査総合センターで作成する地質図には大きく分けて2種類のものが存在する。一つは野外地質調査と室内研究を行い作成する地質図で、その代表が現在の5万分の1地質図幅である。もう一つは、主として既存資料の編纂によって作成する地質図であり、現在地質調査総合センターで発行している20万分の1地質図幅がその代表である(図4)。編纂によって作成する地質図は、当然ながらオリジナルな地質調査で作成する地質図がある程度出版されてから、整備されることになる(図4)。以下では明治から昭和初期にかけてのオリジナルな地質調査で作成された地質図の変遷を見ていく。地質調査所の設立の意見書に書かれているように、地質調査およびその結果作成される地質図は、近代国家として日本が発展するための基盤情報として重要であるとの認識があった。このとき、日本で地質調査を実施する場合の具体的計画として、明治12年(1879年)に20万分の1地質図幅(現在出版している20万分の1地質図幅との混同を避けるため、以下では20万分の1地質詳図と呼ぶことにする)98図幅を約12年で作成する計画が提案されている[4]。20万分の1地質詳図調査に際しては、予察を縮尺40万分の1地質図、詳細を縮尺20万分の1地質図と説明書、これに縮尺10万分の1の土性図とその説明書を合わせて作成する計画だった[4]。予察図は5図幅が計画され、北海道は除外されている。明治19年(1886年)の東北部が最初に出版され、明治27年(1894年)に西部および南西部が刊行され5図幅が出版されるが、最初に刊行された東北部は他に比較して位置精度が劣っていたので、明治28年(1895年)より再調査が始められ明治34年(1901年)に第2版が出版されている[4]。以上の図幅は40万分の1予察地質図と呼ばれている(図4)。20万分の1地質詳図は、オリジナルな地質調査を行い作成された。編纂を主として作成されている現在の20万分の1地質図幅と位置付けが異なることに注意されたい。シリーズ最初の20万分の1地質詳図「伊豆」が出版されたのが明治17年(1884年)であり、シリーズの最後の図幅である「敦賀」が98枚目の図幅として大正8年(1919)年に完成している。明治12年(1879年)の立案から完成まで40年を要したことになる。当初計画では12年であったので、当初計画よりかなりの時間を要したことになる。とはいえ、このときの20万分の1地質詳図は、現在我々が作成している5万分の1地質図幅12枚分の面積であり、これを1図幅当たり4か月(約120日)の調査で完成させて防止対策不要防止対策必要輸送幹線道路計画ルート防止対策不要防止対策必要輸送幹線道路計画ルートAB図3 輸送幹線道路建設により誘発される斜面崩壊を防止する対策を必要とするセルの分布A. 1963年のバージニア州地質図を用いた場合。B. 1992年USGSバージニア州ラウダン郡地質図を用いた場合。黄=防止対策不要。赤=防止対策必要。黒線=輸送幹線道路計画ルート。(文献[2]序論の第5図)。

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