Vol.11 No.2 2018
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論説:放射性廃棄物処分の安全規制と地球科学(伊藤)−103−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)ている力学的指標による断層活動性評価手法は、基準策定には直接活用することは困難となろう。しかし、中深度処分の審査ガイドと同様に、廃棄物埋設地周辺の断層の活動による影響を評価するという基準を設ける場合には、周辺断層の活動性や伸長、複数の断層の連結の可能性の評価を行う必要がある。現状、産総研のみならず世界的に見てもそのような研究が行われた事例は少なく、今後、規制機関の支援を行う上で重要な課題となる。したがって、現状までの力学的手法による活動性評価を発展させ、断層活動性と断層の伸長の関連性の評価や、断層活動をもたらす応力場の変動に関する検討を行い、周辺断層の影響に関する基準や評価の方法論を審査ガイド等へ反映させるための成果を発信すべきである。調査・評価手法に関しては、3章に例を示したように、現状の中深度処分でも産総研のいくつかの成果は審査ガイドに活用されている。中深度処分と比較して地層処分において特に重要となる課題は、より深部の流速が小さな場における地下水流動の評価である。特に、隆起・侵食、海水準変動、断層活動等の要因が、地下深部の水頭、水質や地下水年代の調査結果に与える影響を、今まで産総研で実施してきた水文学的調査研究結果から抽出・整理し、それぞれの水理地質構造に応じた調査、評価上の留意点を示すことで、立地調査や将来的な地下水モニタリング等の審査ガイドに反映させていく必要がある。中深度処分が対象ではあるが、具体的な規制基準の検討が開始された以降、断層活動に関して提示された規制基準と産総研の研究課題設定の相違点を例としても、産総研の研究成果の規制機関への橋渡しは十分とは言えない。これは、規制機関の体制の変化によって、一時的に放射性廃棄物処分の規制上の優先度が不明確となったこと、そのために規制機関と産総研の間での情報交換が不十分となり、迅速な規制基準の整備への対応が困難となったことが主な原因であろう。例えば、中深度処分の位置の基準に関しては、規制機関における外部専門家との本格的な議論の開始から許可基準規則骨子案の公表までの期間はほぼ3か月程度と、比較的短期間で方向性が決まっているため、年度単位の研究プロジェクトの中では対応が困難である。産総研の研究成果の橋渡しのためには、研究成果を利用する規制機関との定期的なコミュニケーションによって、基準やガイドの整備のニーズに合致した科学的知見の受け渡しや新たな研究課題の提案という段階を踏む必要性を痛感している。また、そのような情報交換によって、規制機関に所属する地質学を専門としない技術者の人材育成にも寄与できるものと考えられる。今後、規制機関との議論の土台として、産総研研究成果も含めた現状の最新科学技術をまとめた技術資料の定期的発信や、調査データを可視化したデータベースの継続的整備のように、規制機関が利用しやすい形での発信を行っていきたい。また、個人的には、産総研の科学的研究成果を、規制基準等の整備や審査の判断に活用するための知見へと再構築する役割を果たし、規制機関の方針の転換に柔軟に対処した課題設定や提案を行うために尽力したいと考えている。[1]原子力規制委員会: 第27回廃炉等に伴う放射性廃棄物の規制に関する検討チーム会合参考資料27-2-2炉内等廃棄物の埋設に係る規制の考え方について(改訂案) (2017), http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/hairo_kisei/00000028.html, 閲覧日2007-11-06.[2]原子力規制委員会: 第1回廃炉等に伴う放射性廃棄物の規制に関する検討チーム会合資料1-1第二種廃棄物埋設に係る規制制度の概要 (2015), http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/hairo_kisei/20150126.html, 閲覧日2017-08-16.[3]原子力規制委員会: 第27回原子力規制委員会臨時会議 資料3 第二種廃棄物埋設に係る規制基準等の骨子案 (2017), http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/kisei/00000258.html, 閲覧日2017-09-22.[4]原子力規制委員会: 第27回原子力規制員会臨時会議 資参考文献用語1:Slip Tendency:断層周辺の応力状態と断層の走向・傾斜、間隙水圧から計算される断層面上の作用するせん断応力と法線応力の比で計算される指標[22]。一般的に摩擦係数で規格化され、0~1の値で示される。Slip Tendencyの値が大きい程、現在の応力状態で活動しやすい断層という評価となる。用語2:テフラ:火山噴火の際に火口から放出され、空中を飛行して地表に堆積した火山砕屑物の総称。巨大噴火の際のテフラは供給源から数百~数千km以上隔たった地域においても独立した地層として認められるため、地形面の対比や編年に利用される[23]。用語3:マスムーブメント:地すべりや山体崩壊等、斜面を構成する岩体が重力によって下方へ移動する現象で、斜面上での岩体に対するせん断力がせん断抵抗力を上回ったときに発生する。大規模なものは、移動土塊の体積数10 km3、移動距離数10 km、すべり面の深度数100 m に達することが知られている[5]。用語4:泥火山:泥火山は、異常に高い間隙水圧を持つ地下の泥が上位の地層を押し上げてドーム状に上昇し、地下水(温泉水)、(可燃性)ガス、時には石油とともに地表に噴出して、火山に類似した地形を生じたものである。泥火山による堆積(凸型)地形や陥没(凹型)地形は、最大で高さ数百m、直径数km に及ぶこともある[5]。用語の説明

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