Vol.11 No.2 2018
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論説:放射性廃棄物処分の安全規制と地球科学(伊藤)−102−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)め、今後は、そのような将来予測の前提条件下で、処分場に影響を及ぼす自然事象に関する予測可能期間や長期にわたる不確実性の幅を示すことが必要となる。4.2.2 埋設深度の影響中深度処分の想定処分深度が約100 mであるのに対し、地層処分では、最終処分法において、「地下三百メートル以上の政令で定める深さの地層」に処分するものと規定されている。深度100 m程度における地下水流動は、多くの場合天水を起源とした水の循環であるのに対し、深度が増加した場合、堆積岩地域においては3.2.4項で述べたような異常間隙水圧が発生し、単純な天水の循環が及んでいない場合が多い。異常間隙水圧の成因によっては、地下水流動や核種の移行において従来の数値解析モデルが単純には適用できない場合が存在する。異常間隙水圧が観測された際のその成因の評価、その場合の地下水流動及び物質移行への影響に関しては、今後も知見の整備を進め、審査ガイド等に反映させる必要があろう。また、深度が増加することによって、熱や化学場が地下水流に与える影響が顕著に出ない場合であれば、地表と比較すると動水勾配が比較的小さく、透水係数も小さい傾向があるため、地下水の流速は遅くなる傾向にある[19]。中深度処分においても、審査ガイドで地下水流動解析結果の検証と核種移行経路の設定において、水頭、水質、地下水年代等の情報及び解析的な検討を用いて説明することを要求している。地表から涵養された地下水が地層処分の対象深度に到達するには、中深度処分と比較して長時間を要することに加え、処分深度の地下水は、天水に加え海水や深部流体等の複数の起源を持つ水が混合している可能性があることから、複数の同位体を用いた地下水年代評価や、隆起・侵食や海水準変化による地下環境の変化の結果としての地下水年代と数値解析の結果を有機的に結合させる手法の構築が急務と言える。5 安全規制機関への橋渡しに向けて研究機関の研究成果を規制の許可基準規則やガイド等へ反映させることは、一義的には規制機関側の役割であろう。一方、処分場の立地に関する許可基準規則及び審査ガイドの整備を行うためには、地質学、地形学、地震学、火山学、第四紀学、水文学、地球化学等の幅広い分野の知見が必要となる。規制機関はそれらの分野の最新の研究成果を収集、整理した上で、許可基準規則や審査ガイドを策定しなければならない。そのために、日本における地球科学の主導的な研究機関である産総研地質調査総合センターは、規制機関のニーズを反映した形での成果の橋渡しによる科学的な面での支援を行う必要があり、それは規制機関の将来的な専門性の向上にも有効である。ここでは、今後整備されるべき地層処分の規制に対して、研究機関として行うべき課題と、橋渡しの方法に関して考察してまとめとする。規制における許可基準規則及び審査ガイドは、中深度処分を例とすると、審査・評価項目(審査及び安全評価の対象とする地質事象や地質環境)、審査基準(事象ごとに評価の対象とする期間、排除の基準)及び適合性を実証するために実施すべき調査・評価手法の例から構成される。ここでは中深度処分の許可基準規則、審査ガイドに追加すべき検討項目を抽出する。審査・評価項目に関しては、4章で述べたように、地層処分と中深度処分との相違点から、地層処分特有の課題をより詳細に抽出し、中深度処分の規制基準において考慮すべき地質事象に関して、その評価手法を提示する必要がある。一例としては、科学的特性マップに示されている熱水活動・深部流体が該当する。立地における排除要件とするか否かの最終的な判断は規制機関が行うとしても、産総研は、将来10万年を超える長期間を対象とした具体的な基準が設定可能であるか、あるいは立地調査段階で具体的な調査・評価が可能であるかという課題に対して検討を進める必要がある。審査基準に関しては、規制機関が評価期間の設定を行う上で、第一には4.2.1項に示したように地質事象の発生に対して評価可能な期間の理解が重要である。次に、それぞれの事象に関する評価可能期間における発生可能性の議論として、過去の活動の時空分布の評価によって、将来における事象を評価することとなる。産総研の研究成果の中で、例えば3.2.1項に示した火山活動に関するデータベース等、過去に発生した事象の時空分布を評価可能な例も存在する。しかし、長期予測を行う上では過去に発生した事象の単なる将来への外挿のみではなく、対象地域の構造発達史や事象の発生メカニズムを理解した評価を行う必要がある[21]。そのために、産総研としては、4.2.1項で示した日本列島スケールの地殻変動の将来予測を基とした上で、それぞれの自然事象を対象とした長期予測手法を提示する必要がある。その上で、規制機関は、評価すべき期間と最低限排除すべき基準(例えば、侵食の影響を考慮しても評価期間内に確保すべき深度等)、不確実性が増大する長期間における判断指標等を提示することとなる。例えば、地層処分における断層活動の基準は、過去の履歴から将来10万年間の評価が可能な地域があると考えられている火山活動[5]等と異なり、活動履歴や活動可能性評価ではなく中深度処分と同様に断層の長さのみを対象としたものになる可能性が高い。その際に、産総研が進め

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