Vol.11 No.2 2018
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論説:放射性廃棄物処分の安全規制と地球科学(伊藤)−101−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)きる変動範囲内にとどまることが求められる」と示されており、最低限数万年間以上は天然バリアとなる岩盤の遅延特性に大きな変動がないことがあげられている。科学的特性マップでは、考慮すべき科学的特性とその分布を俯瞰的に見るという目的から、時間スケールに関する明確な議論の結果は示されていないものの、隆起・侵食において10万年間の隆起量300 mが基準となっていることから、対象とする時間スケールとしては10万年が念頭にあるものと考えられる。一方、中深度処分においては、3.1節に示したように、主に侵食による深度減少の予測可能性と放射能濃度の減衰の観点から、10万年間を対象としている。地層処分と中深度処分の廃棄物の特徴を考慮すると、後述するように地層処分においても、少なくとも中深度と同等あるいはそれ以上の時間スケールを対象とすべきであろう。表1中の個別自然事象に着目すると、火山・火成活動及び鉱物資源に関しては、両者でほぼ共通する基準が設けられている。一方、断層活動は、科学的特性マップでは「今まで繰り返し活動し、将来も活動する可能性が高く、変位の規模が大きい断層は回避する必要がある[18]」という前提の下で、活断層とその影響範囲として破砕帯幅(両側で長さの1/100)を好ましくない範囲としているのに対し、中深度処分では長さ5 km以上の断層と、現地調査で想定される力学的影響範囲(最大限断層面からの片側の距離が長さの1/100)を回避する要件としている。対象とする断層に関する相違点は、科学的特性マップの基準は、現段階において全国スケールで得られる活断層のデータベースに基づくこと、一方中深度処分の基準は、実際に現地調査が実施され周辺地域までを含めた断層の三次元構造がある程度把握できた段階で、存在が確認された一定長さ以上の断層は、将来10万年間に活動する可能性があるという考え方に基づく。断層活動の影響範囲に関しては、科学的特性マップでは、地層処分の観点から好ましくない基準として、データベース上の断層長さから破砕帯の幅を想定していることに対し、中深度処分では、破砕帯に加えて、周辺の損傷領域までを調査によって想定すること、その際に想定の最大幅として片側で断層長さの1/100とするという考え方を用いたことで相違が生じている。隆起・侵食に関しては、処分対象深度の相違によって基準となる侵食量の値が異なっている。科学的特性マップは、深度300 m以深に廃棄物を埋設する地層処分において、将来10万年間に隆起と海水準低下による侵食量が300 mを超える可能性が高い地域を、好ましくない範囲の基準としていることに対し、中深度では、3.2.3に示したように将来10万年間において一般的な地下利用の深度以上の深度を確保することを要求したものであり、基本的には将来において処分場、廃棄体が地表へ接近しないことを要件としている点では共通である。その他の項目として、地熱活動、熱水活動・深部流体、未固結堆積物及び火砕流等に関しては、科学的特性マップでは具体的な基準が提示されているが、中深度処分においては排除要件とせず、個別の地点の特性として影響評価を行う項目とされている。ただし、特に熱水活動・深部流体に関しては、処分深度における現状の水質や将来的な活動の評価手法や、安全評価を行う際の地球化学特性の設定方法という問題が残されている。4.2 地層処分の安全規制において考慮すべき要件規制機関において中深度処分の規制基準及びガイドが整備された後は、1章で示した事業の動向や社会的要請から、地層処分における規制基準等の整備が行われる可能性が高い。中深度処分と地層処分において考慮すべき地質事象は類似しているため、地層処分の規制基準が、中深度処分の基準を参考にして整備される場合においても、以下の項目に留意する必要があると考えられる。4.2.1 対象とする時間スケール高レベル放射性廃棄物は、中深度処分対象廃棄物と比較して放射能濃度の減衰には長期間を要するため、規制基準において対象とする時間スケールは少なくとも中深度処分と同等、あるいはより長期間に設定する必要があると思われる。一例として、スイスの規制機関である連邦原子力安全検査局(ENSI)は、「地層処分場の設計原則とセーフティケースに関する要件(ENSI-G03)」において、少なくとも100万年までの間は防護基準が遵守されることの立証を求めている。日本列島においては、立地基準に関連する地球科学的事象の予測可能性に関しても地域的特性が存在するため、地域、事象ごとに一定の確度で予測可能な期間を明示するとともに、不確実性が増大する将来においても安全を評価するための方法論を提示する必要があろう。100万年スケールの地質変動事象を検討する場合は、日本列島スケールの地質現象の根本的な駆動力であるプレート運動の継続性と将来変遷にまで検討範囲を広げる必要が生じる。この課題に対する産総研の既往の研究成果の例としては、日本列島周辺のプレート運動と地殻変動の変遷と将来予測に関する成果があげられる[20]。ここでは、過去2,500万年のプレート運動と地殻変動の再現を行うことで、将来のプレート運動の予測可能性の評価を行い、プレート運動による地殻変動が今後数十万年程度で転換する可能性を示す積極的証拠はなく、少なくとも今後10万年程度は現在の枠組みが継続するということが示されている。プレート運動とそれに伴う地殻変動は、規制基準においても考慮すべき自然事象の根本的な要因となるものであるた

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