Vol.11 No.2 2018
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論説:放射性廃棄物処分の安全規制と地球科学(伊藤)−100−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)形で示したものである。その中で、例えば火山・火成活動、断層活動等の各項目に対し、好ましくない範囲の要件、基準を提示している[18]。科学的特性マップは、処分事業者の公式な立地選定に先立つ議論として、既存の全国スケールで得られるデータから地質学的特性分布を俯瞰的に示したものである。一方、規制における基準は、事業者が処分場の立地のための地質学的調査を行い、処分場の位置を決定した後の審査を行う上での基準であるため、両者の目的が大きく異なる。そのため、両者の基準を直接比較し、個別要件ごとの相違点を単純に議論することは意味を持たないが、地層処分を行う際に考慮すべき要件と、中深度処分の安全規制上の地質学的条件を比較することで、今後、地層処分における規制基準の検討に必要な技術的課題の抽出を行う際の参考としては利用可能であろう。ここでは、科学的特性マップにおける要件・基準と中深度処分の規制基準を表1において比較することで、今後整備されるべき地層処分の規制基準の設定において必要とされる研究課題に関する議論のベースとする。ただし、繰り返しとなるが、両者は対象廃棄物が異なると同時に、科学的特性マップは立地選定の立場で示されたものであり、現状において全国レベルで入手可能なデータから判断されているのに対し、規制基準は調査等が終了して選定された破棄物埋設地の立地の適否を判断するためのものであるということから、要件・基準を利用する段階と中心となる視点の相違に注意が必要である。対象とする時間スケールに関しては、科学的特性マップ整備の議論を取りまとめた報告書[19]において、「処分場スケールの地質環境は、人工バリアの機能が所定の期間維持されるのに適した設置環境としての特性を有すること、天然バリアが放射性物質の溶解、移行を抑制するのに適した特性を有すること、さらには、それらの特性が数万年以上の長期間の時間スケールにおいて変遷する中で許容で表1 科学的特性マップと中深度処分規制基準における地質事象ごとの要件と基準の比較前提条件及び評価項目科学的特性マップにおける好ましくない範囲の要件(地層処分の観点からの特性の分類)中深度処分の許可基準規則・審査ガイド(原子力規制委員会)事業者の事業許可申請に対する安全審査少なくとも10万年目的及び利用する段階基となるデータ対象とする時間スケール火山・火成活動断層活動隆起・侵食地熱活動火山性熱水活動・深部流体未固結堆積物火砕流等鉱物資源等事業者の公式な処分場立地の前段階において、国民理解を深めるための対話活動天然バリアの遅延特性が維持される期間として数万年以上、隆起・侵食では10万年・第四紀火山の中心から15 km・第四紀の火山活動範囲が15 kmを超えるカルデラの範囲・活断層に、活動セグメント長あるいは起震断層長の1/100程度の幅を持たせた範囲・将来10万年間で隆起と海水準低下による侵食量が300 mを超える地域(処分場の地表への接近の観点から)・処分深度において緩衝材温度が100 ℃未満を確保できない地温勾配・地下水の特性としてpH4.8未満あるいは炭酸化学種濃度0.5 mol/L以上を示す範囲・深度300 m以深まで更新世中期以降の地層が分布する範囲・完新世の火砕流堆積物・火山岩・火山岩屑の分布範囲・鉱業法で定められる鉱物のうち、全国規模で整備された文献データにおいて、技術的に採掘が可能な鉱量の大きな鉱物資源の存在が示されている範囲事業者が実際に立地調査を実施した後の調査データ及び文献データ・第四紀における火道、岩脈等の記録のある地域・第四紀火山活動の時空分布から、少なくとも今後10万年間にわたって火山活動が生じる可能性がある地域・地表面に投影した長さ5 kmの断層及び力学的影響が及ぶ範囲(当該断層からの距離が断層長さの最大1/100まで)・将来10万年間においても深度70 mを確保・海水準変動による側方侵食を考慮(トンネル等の地下利用深度の観点から)・排除要件としないが、立地地点の状況を勘案して影響を評価・排除要件としないが、立地地点の状況を勘案して影響を評価・地表施設に関しては、完新世の火砕流堆積物等の分布範囲・排除しないまでも、実際の地質環境調査において、処分システムの性能を評価する上で重要となる事項・天然資源が有意に存在することが確認されていない区域に設置・天然資源とは、現在、すでに社会的に利用されている資源又は将来的にその利用が有望視されている資源・発電エネルギー資源として利用可能な地熱資源の存在する地域・熱特性に関しては排除要件としないが、立地地点の状況を勘案して影響を評価以下の条件を満たす文献データ1)品質が確立され(信頼性の観点)2)全国規模で体系的に整備されるなどにより地域間  のデータが客観的に比較可能とし(地域間の公平  性確保の観点)3)現時点で一般的に入手可能である(透明性・検証  可能性の観点)

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