Vol.11 No.2 2018
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論説:放射性廃棄物処分の安全規制と地球科学(伊藤)−99−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)づく過去数十万年間の隆起速度評価の高精度化を進めている。一方、地域的な侵食速度を数十万年の時間スケールにおいて直接的に評価する手法として、地表近傍における岩石の宇宙線への暴露によって、岩石中に生成された核種の深度分布を用いて評価する手法の研究を行ってきた[13]。前者に関して、指標地形面の編年では、段丘構成物から年代が既知の広域テフラ用語2を検出した上で、地形面が形成された海水準変動ステージを間接的に推定する方法が一般的であるが、複数回の海水準変動サイクルを経た古い地形面では、年代指標となるテフラが乏しい場合が多いという問題が存在した。産総研が進めている研究は、そのような地形面への適用においても、堆積物の堆積年代を直接評価することによって地形面の形成年代を評価する手法である。一般的な石英粒子を用いたルミネッセンス法は測定限界として約10万年前[5]であり、将来少なくとも10万年以上の隆起・侵食の評価を行うためには十分な時間の評価が困難であった。一方、カリ長石粒子を用いたルミネッセンス法を適用することで、適用限界を数十万年前まで拡大することが可能となった。将来10万年の予測を過去の外挿から精度良く行うためには、少なくとも過去数十万年までの地形面の編年と隆起速度を高精度で評価することが必要であり、これによって、将来10万年の予測の確度が向上するため、特にテフラによる編年が困難な地域においても、実際の処分場立地選定における手法の適切性の判断の科学的根拠となり得る成果が得られている。後者に関して宇宙線核種は、海水準変動とは独立した評価手法であり、侵食速度を直接評価できる手法であること、明瞭な指標地形面が認められない場合においても適用可能な手法として、審査ガイド骨子案において、事業者から提出される申請の妥当性を確認する上での適用されるべき調査・評価手法の例として示されている。ただし、放射性廃棄物処分への適用に当たっては、個々の侵食量評価手法が適用可能な空間スケールの検討等、今後解決すべき課題が多い。また、現状の侵食量評価手法では評価が困難な、海水準変動に伴う沿岸部の側方侵食や河川侵食による将来10万年間における水平方向の侵食量の予測手法に関する知見の蓄積が必要となる。3.2.4 その他地質事象等審査ガイド骨子案においては、以上の地質事象の他に、大規模マスムーブメント用語3、泥火山用語4等の事象が、立地の排除要件となり得る事象として示されている。また、排除要件として扱わないが、立地地点の状況を勘案して影響評価を行う事象として、熱水活動・深部流体、気候変動・海水準変動があげられ、それ以外に熱(T)、水理(H)、力学(M)、地球化学(C)のいわゆるTHMC特性が個別評価の対象として示されている。それらの個別要因に対して、産総研は例えば大規模マスムーブメントデータベース[14]、泥火山データベース[15]を公開し、審査において用いられる知見の整理を行っている。熱水活動・深部流体に関しては、日本列島におけるスラブ起源水上昇地域をデータベース化するとともに、日本列島における深部流体の起源及び化学的特性の分類を行っている[16]。今後は、単に現状における深部流体上昇の有無のみではなく、将来的な深部流体上昇の可能性、その際の想定される化学特性等の評価を行うための手法開発が必要である。また、処分深度が比較的浅いため、周辺地下水が酸化的環境となり、核種の地下水への溶解の促進や、ベントナイト等の人工バリアの核種隔離性能あるいは遅延性能の低下を引き起こす可能性への配慮が必要となる。一方、THMC特性に関して処分場の地下施設建設による人為的擾乱が発生する前の、いわゆるベースライン調査における物理探査やボーリング調査を用いた手法開発と技術的取りまとめを実施しており[5]、特に水理特性に関しては、異常間隙水圧と地下水流動、物質移行への影響の評価手法に関する詳細な検討を行っている[17]。それらの地下環境のベースライン評価と長期変動予測の中で、安全評価上特に問題となり得る水理、地球化学特性とそれらの長期変動予測に関する評価手法に関する研究を進め、今後整備及び改訂が進められる調査、モニタリングに関する審査ガイドに反映されるよう、成果の取りまとめを行っていく必要がある。4 地層処分の規制への成果の反映法4.1 中深度処分安全規制との共通点と相違点地層処分に係る規制の考え方は、高レベル放射性廃棄物に含まれる長半減期核種の濃度が中深度処分と比較して数桁高いという特徴を有する。地層処分における具体的な要求深度や評価期間については中深度処分と異なると考えられるため、さらなる技術的な検討が必要である。しかし、例えば長期間にわたって公衆と生活環境を防護するための根幹的な対策として、事業者に離隔と閉じ込めといった設計上の対策を要求する考え方などは中深度処分と共通するものと考えられている[1]。ここでは、地層処分と中深度処分の具体的な技術的課題の相違点を明らかにすることで、地層処分の安全規制の技術的要件と、そこへ研究成果を反映させるための課題を分析する。資源エネルギー庁が公開した「科学的特性マップ」[18]は、地層処分を行う場所を選ぶ際にどのような科学的特性を考慮する必要はあるのか、それらは日本全国にどのように分布しているかということを大まかに俯瞰するためにマップの

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