Vol.11 No.2 2018
47/66

論説:放射性廃棄物処分の安全規制と地球科学(伊藤)−98−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)囲に設置されていない場合、すなわち前段の基準に適合している場合においても、「廃棄物埋設地近傍に断層が存在する場合には、当該断層の形状、規模及び活動度を考慮し、廃棄物埋設地への影響を勘案した上で、当該断層の伸長の可能性を評価すること」とされているが、現状の審査ガイド骨子案においては具体的な評価方法が明示されていない。産総研は、規制支援研究として主に低活動性断層の再活動可能性評価に関する研究として、花崗岩地域を対象とした断層ガウジ(断層粘土と破砕物からなる破砕帯)の鉱物・化学特性による評価[9]、断層面の三次元的形状と断層面に作用する応力による力学的指標(Slip Tendency用語1)を用いて断層の動きやすさを評価する手法の開発[10]を行ってきた。産総研は、この力学的指標を用いた評価手法を、東北、中部、近畿地方等の異なるテクトニックブロックに適用している[11]。その結果、図4に例を示すように、東北地方においては第四紀における活動履歴が確認されている断層は、多くの場合Slip Tendencyによって有意に抽出することが可能であることが示された。しかし、中部日本や近畿地方においては、第四紀における活動履歴が認められていない断層においてもSlip Tendencyが大小広く分布している結果となっている。その原因としては、断層の摩擦係数や断層面内の間隙水圧の影響、第四紀の活動履歴が存在するにも関わらず活動間隔が長いために、地形学・地質学的手法では正確に評価できていない可能性などが考えられるが、その上で、活動履歴が認められていない断層に関しても、現在の地殻応力状態によって将来活動する可能性があるものが存在すると結論づけられている。このような解析は、断層の三次元的形状等の調査結果に加え、微小地震等の観測結果によるその場に作用する地殻応力の解析結果があって初めて可能なものであり、両者を備え、融合できる産総研地質調査総合センターの代表的な研究成果と言える。しかし、審査ガイドにおいて、廃棄物埋設地の設置を避けるべき断層に関しては、前述したように断層の活動履歴ではなく長さを要件としたことによって、その要件に産総研の成果が直接反映されるまでは至らなかった。これには、前述したような断層活動に関する保守的な判断に加え、力学的指標による評価の適用例がいまだ十分でないことや、境界条件となる応力場や入力パラメータ等の設定に関して不確実性が残存していることが影響していると考えられる。3.2.3 隆起・侵食中深度処分や地層処分のような地下への放射性廃棄物の処分において、埋設深度の減少は、廃棄体の地表への露出に至らないまでも、トンネル等の地下空間利用あるいは井戸等のボーリング掘削といういわゆる人間侵入による被ばくの原因となり得る。そのため、中深度処分の許可基準規則骨子案では、人間侵入の防止という観点から、廃棄物埋設地の位置に関する基準に、将来的な侵食量に関する要求が設定されている。許可基準規則骨子案においては、深度に関する要求として、現在のトンネル等による地下利用の実績から、将来少なくとも10万年間にわたり、廃棄物埋設地の深度として、70 メートルが確保されることを要求している。したがって、調査・評価手法としては、将来10万年間における侵食量あるいは侵食の要因となり得る隆起量に関して、過去の外挿という観点から過去数十万年間における侵食量あるいは隆起量の標準的な調査・評価手法を示す必要がある。審査ガイドでは、過去の侵食によって生じる指標地形面の形成年代の評価、あるいは必要に応じた地球化学的調査を行うことが調査・評価手法として示されている。産総研においては、海岸段丘等の指標地形面の編年を行う際にも適用可能な年代測定手法として、カリ長石を用いた光ルミネッセンス法[12]による浅海堆積物の堆積年代の測定と、詳細な堆積相解析による海面指標の認定[5]に基図4 東北地方の活断層に対する力学的指標による活動度評価結果、地域応力場は東北地方太平洋沖地震前の地震データから算出([10]を一部改変)4140.54039.53938.53837.537139.5140140.514110.50141.5142緯度(N)経度(E)Slip Tendency

元のページ  ../index.html#47

このブックを見る