Vol.11 No.2 2018
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研究論文:食洗機対応伝統工芸品「ナノコンポジット玉虫塗」(蛯名ほか)−79−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)執筆者略歴蛯名 武雄(えびな たけお)1993年東北大学大学院工学研究科博士課程を修了し、通商産業省工業技術院東北工業技術試験所に入所、2度カリフォルニア大学サンタバーバラ校で在外研究し粘土を含む機能性材料の研究を行う。現在、産総研化学プロセス研究部門首席研究員。2004年以降粘土を主成分とする膜材料の開発に従事する。原料粘土の合成から応用製品の大量生産方法まで幅広く研究する。粘土膜の用途としては合成粘土を用いた透明フィルムとそれを用いた電子デバイス等がある。この論文では、保護層の材料開発と評価を担当した。佐浦 みどり(さうら みどり)1991年東北学院大学法学部を卒業し、民間銀行に入社、その後、1996年に東北工芸製作所に入社。現在、東北工芸製作所の常務取締役。営業、販売、商品企画を担当する。この論文では、塗料の特性についての情報交換、ユーザー評価および製品化を担当した。松川 泰勝(まつかわ やすかつ)1981年東北高等学校を卒業し、同年に東北工芸製作所に入社。現在、東北工芸製作所の工場長。商品の生産と管理を担当する。この論文では、スプレーによる塗工手法および製品への保護層付与方法を確立した。査読者との議論議論1 全体についてコメント(内藤 茂樹、景山 晃:産業技術総合研究所)この論文は昭和3年に世界恐慌以降の産業活性化のために設立された「商工省(現在の経済産業省)工藝指導所」が発明した深みのある外観を呈する漆器「玉虫塗」の技術、玉虫塗を仙台を代表する工芸品に育てた東北工芸製作所、合成スメクタイトの工業化を成功させ、用途開発を進めていた産総研東北センターの協働により完成させた新しい技術について述べています。玉虫塗の優れた外観を保ちながら、漆器の弱点である耐擦過性を著しく向上させた技術開発の経緯と得られた結果を纏めています。[14]日本電色工業株式会社: 色の許容差の事例, http://www.nippondenshoku.co.jp/web/japanese/colorstory/08_allowance_by_color.htm, 閲覧日2018-03-05.[15]蓮沼宏: 光沢とその測定, 金属表面技術, 8 (5), 155–160 (1957).[16]気象庁: 日積算UV-B量の月平均値の数値データ表, http://www.data.jma.go.jp/gmd/env/uvhp/uvb_monthave_tsu.html, 閲覧日2018-03-05.[17]鳥居一雄: 機能性粘土素材の工業応用史, 機能性粘土素材の最新動向 (小川誠監修), シーエムシー出版, 東京, 151–189 (2010).[18]蛯名武雄: 粘土膜の開発-出会いの側面から見た本格研究シナリオ-, Synthesiology, 1 (4), 267–275 (2008).伝統工芸の分野と先端科学・工学の分野とが連携して、従来製品の弱点や壁を突破して社会に新たな価値を提供する形の協創はまだ少ないと考えられるなかで実施された貴重な事例で、他の分野についても大きな示唆を与えることから、シンセシオロジー誌に相応しい論文です。議論2 要素技術の全体像について質問(景山 晃)今回の技術には(1)製品性能を表す指標(透明性、表面硬度、耐擦過性、耐紫外線性、耐食洗器性、密着性等)、(2)保護膜用材料設計の際の変数(有機粘土、紫外線硬化樹脂、溶媒、粘土成分の組成と分散粒径等)、(3)塗工条件設定上の課題(塗工時の粘度、被塗装物の形状に応じたペースト希釈技術、ゆず肌防止、室温硬化性等)に対する全体最適化技術が重要ですが、これらの全体像が分かる図表がないので、読者は理解しにくいと思います。そこで、特性要因図、例えば魚骨(shbone)図または表形式を活用して全体像を示すことはできませんか。回答(蛯名 武雄)ご指摘のように製品性能を表す指標が多く、またこれらも連関を持っているために、特性要因図を魚骨図の形で示すことにいたしました。これを図3として追加いたしました。コメント(景山 晃)図3を作成したことにより要素技術の全体像が分かりやすくなりました。今回の技術開発の大きな特徴である「美しい外観」を維持するためには、材料・組成面と塗工プロセスの両面からの検討が必要と考えられますので、これを意識した特性要因図を示すと東北工芸製作所の寄与部分が一層理解しやすくなると思います。回答(蛯名 武雄)ご指摘ありがとうございます。確かに図をご指摘の通り直すことによって、東北工芸製作所の寄与部分を理解しやすくなります。そこで、「美しい外観」の枠内に2段表示で「透明性・つやの実現」を加え、これらを解決するには材料・組成面の検討と塗工プロセスの検討の2大区分を示し、その次のレイヤーに現在記載してある各要因を示しました。議論3 研究開発の結果を示すデータの補強についてコメント(内藤 茂樹)耐擦過性評価でUV硬化性樹脂を鉛筆硬度で絞込み、粘性によりUV7605Bを選定した箇所において、UV硬化性樹脂の化学構造の概要と科学的な理解を記載されておく方がよいと思います。回答(蛯名 武雄)ご指摘の点、その通りだと思います。そのため、単に現象論だけではなく、科学的な記述を加えました。具体的には、検討したUV硬化性樹脂はウレタンアクリレート樹脂であり、UV-7605B、UV-7640B、UV-1700Bの分子量/オリゴマー官能基数はそれぞれ1100/6、1500/6-7、2000/10である旨を記載し、樹脂の化学的特性を示しました。また、UV-7605Bは3種類の樹脂の中で最も分子量が小さいため、粘性は低いこと、および、樹脂のオリゴマー官能基は多い方が硬度が高くなると考えられるが、粘土樹脂混合系では最適な分子量およびオリゴマー官能基量があるものと考えられるとの記載を加えました。コメント(景山 晃)材料技術の最適化に関しては文章での論述に加えて、もう少しデータを図または表で示し、判断根拠を明確にした方がよいと考えます。また、有機化粘土の有機化剤としてSPN、STN、SAN、SAN316を評価していますが、これらは化学構造が異なる4級アンモニウム塩

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