Vol.11 No.2 2018
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研究論文:食洗機対応伝統工芸品「ナノコンポジット玉虫塗」(蛯名ほか)−78−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)は幅広く表面の柔らかいプラスチック製品等へ応用することが期待されることから、漆器以外の用途にも紹介を行っていく。Appendix. 伝統工芸と先端技術の連携・協奏高耐久性漆器開発の取り組みは、「工芸試作品展示室」の展示品をある職員が見たことがきっかけで開始された[2]。「工芸試作品展示室」は東北工業大学の庄子晃子名誉教授の指導の下2004年から2011年まで産業技術総合研究所東北センターC棟1階に設置された。東北センターの前身である工芸指導所は東北の産業振興を目的として設立されており、この工芸指導所および産業工芸試験所の東北支所の工芸試作品が保存・展示されていた。一方、東北センターは天然スメクタイトの鉱山の多い東北に立地していることもあり、スメクタイトメーカーと協力して合成スメクタイトの工業化に成功[17]しており、今回使用した粘土原料は合成スメクタイトの有機化製品である。さらに粘土を用いた膜は、合成スメクタイトの「膜になりやすい」という特徴を生かした材料である。玉虫塗も粘土膜もコーティングであることから、東北センターの技術シーズを、漆器の用途拡大に広がる応用へとマージできないか、という発想に至ったことが、本連携に繋がった。材料開発と、工芸製作という、一般的には連携が難しい間で、お互いのフィールドに踏み込んで密接な協力と連携のもとで、検討結果に対するフィードバックがかけられ、改良が進み、産学官連携が有効に発揮できたと考えている。これは東北工芸製作所の伝統を守りつつも新しいものを取り込んでいこうとする姿勢が表れたものである。粘土原料供給企業等との連携により、ペースト供給から漆器製品の生産に至る製品供給の流れを作ることができ、統合開発[18]の好例と言える。高耐久性漆器の開発は東日本大震災後の科学技術振興機構の復興促進プログラムの中で行われ、科学技術振興機構コーディネーターによる事業化への後押し、東北センター、東北工芸製作所のメンバーとの産学官連携のプロジェクトとしても評価されるようになった。2017年12月に東北工芸製作所は経済産業省より未来地域牽引企業に選定され、高耐久性漆器およびナノコンポジットの官民連携によるブランド化を進める形ができた。今後さらに、異業種の分野への参入や新たな価値を創出する商品へ繋げていきたい。近代工芸発祥の地「仙台」ならではの歴史と産学官連携の先駆けとして生まれた「玉虫塗」の技法を継承するためにも、今後も産学官連携を続けたい。 謝辞本成果の一部はJST復興促進プログラムA-STEPシーズ顕在化タイプ「粘土を含む保護層を付与した高耐久性漆器の開発」、JST A-STEPハイリスク挑戦タイプ(復興促進型)「無機有機ナノコンポジット高耐久表面処理技術の開発と宮城伝統工芸『玉虫塗』への展開」、および仙台市ものづくり中小企業製品開発補助金「無機有機ナノコンポジット高耐久表面処理技術を宮城県指定伝統的工芸品『玉虫塗』への展開」による成果である。庄子晃子先生(東北工業大学)、磯江準一氏(科学技術振興機構)、桒永規行氏、佐藤幸輝氏、遠藤光弘氏(仙台市産業局)、始澤達司氏(株式会社仙台山來)、佐浦康洋氏、木村真介氏(有限会社東北工芸製作所)、岩田伸一氏、田中理枝氏(産業技術総合研究所、当時)、鈴木麻実氏、外門恵美子氏、南條弘博士、石井亮博士、林拓道博士、相澤崇史博士、和久井喜人博士、中村考志博士、阿部真之氏(以上産業技術総合研究所)をはじめ開発に関わった多くの方々に謝意を表したい。[1]梶井紀孝, 江頭俊郎, 藤島夕喜代: 漆塗膜へのコーティング技術による耐候性向上の研究, 石川県工業試験場平成25年度研究報告, 25–28 (2013).[2]庄子晃子: 仙台・宮城デザイン史, 日本・地域・デザイン史Ⅱ (芸術工学会地域デザイン史特設委員会編), 美学出版, 東京, 235 (2016).[3]佐浦みどり: ナノコンポジットコーティングによる高耐久性漆器~使える工芸の実現, プラスチックス, 68 (2), 58–61 (2017).[4]蛯名武雄:柔軟な自立耐熱性フィルムクレーストClaist, FC Report, 23 (3), 109–112 (2005).[5]蛯名武雄:新規耐熱フィルム「クレーストClaist」の開発, 未来材料, 6 (5), 22–25 (2006).[6]T. Ebina: Development of clay-based films, Chem. Rec., DOI:10.1002/tcr.201700085 (2018).[7]Y. Imai, A. Terahara, Y. Hakuta, K. Matsui, H. Hayashi and N. Ueno: Synthesis and characterization of high refractive index nanoparticle/poly(arylene ether ketone) nanocomposites, Polymer Journal, 42, 179–184 (2010). [8]篠原宣康: ナノコンポジット・ハードコート材の開発, 有機・無機ナノ複合材料の新局面, NTS, 東京, 122–130 (2004).[9]K. Kawasaki, K. Sakakibara, F. Mizukami and T. Ebina: Development and evaluation of novel radical-trapping sheets composed mainly of clay, Clay Science, 13, 217–224 (2008).[10]E. Pavlacky, N. Ravindran and D.C. Webster: Novel in situ synthesis in the preparation of ultraviolet-curable nanocomposite barrier coatings, J. Appl. Polym. Sci., 125 (5), 3836–3848 (2012).[11]M. Alexandre and P. Dubois: Polymer-layered silicate nanocomposites: preparation, properties and uses of a new class of materials, Mat. Sci. Eng. R., 28 (1-2), 1–63 (2000).[12]塗装技術便覧編集委員会; 塗装技術便覧, 日刊工業新聞, 東京, 191 (1956).[13]蛯名武雄, 外門恵美子, 林拓道, 石井亮, 和久井喜人, 中村考志, 松川泰勝, 佐浦みどり: 有機化粘土/ポリマーコンポジットコーティングの伝統的漆器保護層としての検討, 第58回日本粘土学会講演要旨集, 40–41 (2014).参考文献

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