Vol.11 No.2 2018
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研究論文:食洗機対応伝統工芸品「ナノコンポジット玉虫塗」(蛯名ほか)−76−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)る試験エリア25か所のいずれも剥離がない分類0と判定され、十分な密着性が確認された。さらに木質成形板、アルミの表面に対して同じ保護層を付与したサンプルについて、分類0と判定され、十分な密着性が確認された。3.4 塗工方法の確立上記の検討はすべて、平板試料での評価である。しかし、実際の製品は立体であり、三次元表面に保護層を付与することが要求された。そのため、バーコーターではなく、スプレーを用いて塗工を行うこととした。ペースト液の粘性特性により、均一でかつ十分な厚みの保護層を付与できるかどうかが重要である。そのため、東北工芸製作所の工房にて開発ペーストをスプレーコーティングし、漆器表面に透明で、均一な高意匠性コーティングできるような最適条件を見出すこととした。具体的には、溶剤添加によるペーストの粘度、スプレー吹き出し圧力、塗工回数の最適化等を行い、高い品質のコーティング層の塗工方法を検討することとした。3.4.1 均一性の高い吹き出し条件玉虫塗では、被塗物の形状により、最適なペースト粘度がある。具体的には、側面が多い製品と水平面が多い製品では後者は粘性が低く、同じ平面でも面積が広いほどに粘性を低くしている。今回開発ペーストでは、ウレタンシンナー(カシュー株式会社製ストロンシンナー)を追加溶剤として、その分量で粘性を調整できることを確認した。通常商品としての短冊しおり、タンブラー、オールドグラス、ワインカップ(2形状)、プロトタイプとしておちょこ、片口、小判皿、角鉢、プレートという、10種類の被塗物に塗布するための最適なペースト粘度を確認した。以上の知見から、製品形状毎の適切な追加溶剤量が分かった。スプレー塗装を用いている玉虫塗では、吹き付け速度をエアー圧によって調整している。通常の玉虫塗の塗工における最適な圧力は0.2-0.4 MPa前後である、この圧力で開発ペーストを塗工すると、ゆず肌(表面に凹凸)ができてしまい、玉虫塗ならではのつやが消えてしまった。検討の結果、本ペーストにおける最適な圧力は0.15 MPaであることが分かった。3.4.2 塗工回数この研究では、玉虫塗の仕上げに、保護層を追加したため保護層の高い透明度が必須である。塗工回数の追加により、輝きとつやが消えない保護層の透明度を確保できることを確認した。具体的には、SPNの含有量を細やかに調整し、保護膜なし(=通常の玉虫塗商品)と見比べ、美観を損なわない配合を発見した。保護層塗工後の紫外線照射のプロセスは、表面にゴミが付かないよう細心の注意を払って行われた。紫外線照射には、上面からだけでなく、側面等からも十分な強さの紫外線が当たるように専用のボックスを製作し、このボックスを上塗りの吹き付け室内に設置し、紫外線乾燥の一連の工程が完了するようにした。光を反射するアルミ板を活用、回転させることなども取り入れることでオリジナルの装置を作成した。3.4.3 形状の違いによる再現性前述の通り、玉虫塗では製品の形状により、塗料の粘度コントロールを行っている。今回製作した1種類の試作品においては、玉虫塗部分について東北工芸製作所の通常商品と同等の美観を確保することができた。また、素材についても通常の塗り加工を行った上で、木製、樹脂(アクリル、ABS)、ガラスといった玉虫塗で使われている素材から、今後の活用を検討している磁器まで、商品同等の玉虫塗の外観の再現を行うことができた。3.5 製品仕様の確立3.5.1 試作品の製作と評価試験および展示会調査樹脂30 gに対して粘土添加量を1.5 gから7.0 gまで変えた4種類のペーストでスプレー塗工したおちょこについてG値測定とモニター評価アンケートを行った。紫外線硬化樹脂に対する粘土の割合を変えて工房でスプレー塗工したおちょこ4種類と通常の玉虫塗りのおちょこ(保護膜なし)の5種類を展示会において、来場者にアンケートを行った(図13)。保護膜なしに外観が一番近いサ図13 ユーザー評価用おちょこサンプルの外観図中の数字は樹脂30 gに対する粘土の添加重量。1.5 g3 g5 g7 g保護膜なし

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