Vol.11 No.2 2018
23/66

研究論文:食洗機対応伝統工芸品「ナノコンポジット玉虫塗」(蛯名ほか)−74−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)スプレー塗工時に、より多くの溶媒で薄めなければならないという問題点があるため、UV7605Bを採用することにした。バーコーターによる製膜時には問題がなかったものの、スプレー塗工の際に、粘性を低下させる目的で溶媒を添加したところ、つやが十分に得られなかった。これは、ペーストの高い粘性に対し、レベリング性が低く表面に凸凹が生じたためと考えられた。粘土添加量を低減させることによって粘性を下げることが可能であり、粘土添加量を、7 g、3 g、1.5 g等に変えた検討を行い、21 gの場合よりもレベリング性が改善していることを確認した。以上のように、ヘーズ値、分散性から有機粘土を選定し、有機粘土添加量と粘性の関係をチェックし、可視光吸収特性・透明性、スプレー塗工性・レベリング性などを評価し、以降の塗膜性能評価では粘土添加量3 g(樹脂30 gに対して)として評価検討を進めた。樹脂30 gに対して、SPNを3 gとした場合に、表面硬度を鉛筆硬度として評価した結果を図9に示す。サンプルはいずれも、スライドガラスに黒玉虫層(ウレタン樹脂)を付与したものの上に保護層をスプレー塗工したものである。鉛筆硬度は4 Hから5 Hであり、目標値である3 H以上の十分な表面硬度を示した(図9右)。一方、保護膜なしの黒玉虫表面は鉛筆硬度Fと判定された(図9左)。以上のように、保護層付与により十分な耐擦過性の向上が認められた。玉虫塗の塗料は、多くの場合カシューあるいはウレタンを使用している。ウレタンは黒色で評価済であることから、カシュー樹脂(赤色)をスライドガラスに塗工したサンプルに対する試験を実施した。カシュー樹脂の鉛筆硬度はHBと判定され、ウレタンの鉛筆硬度Fに比べいくぶん柔らかいことが分かった。また、図9と同様の保護層を付与した場合には、表面硬度は3 Hに向上することが確認された。以上のように、ウレタン表面・カシュー表面ともに保護層は柔らかい表面の硬度を上げる効果があることが分かった。3.3.3 耐食洗器性の評価耐食洗器性の評価としてはこれまで決まった方法がなかった。そこで、食洗器による一般的な洗浄を一定回数繰り返し、その前後で評価試験を実施し、その変化が十分小さいことを目標とすることとした。評価項目は、色、つや、そして表面平坦性とした。まず産業技術総合研究所内に評価用食洗機(Panasonic製NP-TR6)を設置した。洗浄は通常コースで実施し、除菌ミスト、洗い、すすぎのプロセスが行われ、時間短縮のため乾燥は行わなかった。洗いの際のお湯の温度は約70 ℃とした。1サイクルの洗浄時間は約30分である。使用した洗剤はライオン製CHARMYクリスタクリアジェルである。ガラス上に黒玉虫等を付与し、その上に、樹脂30 g、トルエン70 gにSPN 3 g、開始剤6 gの構成で保護層をスプレー塗工したサンプル(玉虫塗が薄いもの、中くらいの厚み、厚いものそれぞれ1枚ずつ)で、20回、60回、100回食洗機にかけたところでそれぞれサンプルを取り出し、色差計によって初期の色からの変化を測定した(図10)。色差⊿E*abは小さければ小さいほど、色の違いが小さいことを示す。保護膜がない場合、100回洗浄後の色差は平均0.97であり、保護膜がある場合0.76であった。0.97はAA級許容差[14]に区分され、「色の隣接比較で、わずかに色差が感じられるレベル」であり、一方0.76はAAA級許容差に区分され、「目視判定の再現性からみて、厳格な許容色差の規格を設定できる限界」である。100回洗浄後でも色差がA級許容差「色の離間比較では、ほとんど気づかれない色差レベル」に相当する1.6以上となるケースはなかった。この結果より、保護層は、食洗機で繰り返し洗浄しても変色しないことが分かった。美観評価の一環として、「つや」に相当する測定値「GF    保護層有保護層無4 H1.41.21.00.80.60.40.202060100洗浄回数[回]0-10-20G値差[-]保護膜なし保護膜ありN=3[-]色差図9 黒玉虫層の鉛筆硬度試験結果図10 食洗機試験前後の色差およびG値差

元のページ  ../index.html#23

このブックを見る