Vol.11 No.2 2018
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研究論文:食洗機対応伝統工芸品「ナノコンポジット玉虫塗」(蛯名ほか)−72−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)果になった。次に、4種類の合成粘土のトルエン分散液(5 wt%)約0.3 gを厚さ約1 mmのガラス板の上に約3×3 cmの大きさに伸ばして室温乾燥した。この乾燥したガラス板のヘーズ(曇り度)値をヘーズメーター(日本電色製NDH5000)で測定した。ヘーズ値は小さい順に、SPN、 SAN316、 SAN、 STNの順になった。ヘーズ値が小さいということは光が散乱せずクリアーな外観であることを示しており、好ましい。以上の結果から、有機化剤の炭素数の一番多いSPNは分散液中でも細かく分散し、ガラス上塗工膜についても低ヘーズとなることが分かったので、粘土としてSPNを採用することにした。紫外線硬化樹脂については、鉛筆硬度がカタログ値で今回の目標値である3 H以上である日本合成化学工業株式会社製UV-7605B、UV-7640B、UV-1700Bの3種類を候補として上げた。これらは、ウレタンアクリレート樹脂であり、UV-7605B、UV-7640B、UV-1700Bの分子量/オリゴマー官能基数はそれぞれ1100/6、1500/6-7、2000/10である。これらを用いた保護層の付与方法を図4に示す。これは、紫外線硬化樹脂、トルエン、粘土、そして光重合開始剤を所定の割合で混合し、均一なペーストになったものをバーコーターにてスライドガラス上、あるいは玉虫塗上に塗工し、紫外線硬化装置による重合を行うものである。使用する溶媒は、選択されたSPNに適しているトルエンを用いた。ここで、樹脂とトルエンの重量比率を30:70に統一した。粘土は、ペーストの増粘効果を有するため、粘土を過剰に添加すると粘性が上がりすぎて塗工できなくなる。そのためペーストへの粘土の添加量と液の粘性について調査を行った。具体的には、UV-7605Bに有機化粘土の添加量を変えて、ペーストの粘性を調べるものであり、行った操作は下記の通りである。まず、トルエン70 gに樹脂30 gを分散させた。次に、SPNをスクリュー管瓶に計り入れ、粘土が分散するまで振しんとう盪した。以上の方法でペーストを作製したところ、混合できたのはSPN添加量25 gまでで、SPNが30 g以上になると液が動かなくなった(図5)。UV-7605Bは3種類の樹脂の中で最も分子量が小さいため、粘性は低いと考えられる。そのため、振盪可能な有機化粘土の添加割合は、樹脂30 g、トルエン70 g、に対して25 gまでであることが分かった。ここでは、取り扱い性の観点から、SPN添加量は21 gとしてペースト試作することとした。スライドガラス上保護膜の紫外可視吸収スペクトルを図6に示す。保護膜は可視光領域に吸収がないことが分かった。また、紫外線吸収剤の吸収は、樹脂と粘土が共存する場合に、より強く、長波長側にシフトすることが確認された。これは、紫外線吸収剤の濃度が高い場合に観察される現象であり、粘土表面に紫外線吸収剤が濃縮されて吸着していることが示唆された。また、吸収が長波長側にシフトすることにより、保護膜の紫外線遮蔽効果が上がり、漆器の耐紫外線性の向上が期待される。スライドガラス上の保護膜硬化実験において、溶媒がトルエンの場合も、東北工芸製作所が使用するシンナー(トルエン、キシレン等混合溶媒)を用いた場合も、いずれも紫外線で硬化ができることを確認した(厚み約10 µm)。東北工芸製作所では、乾燥に漆風呂[12]が用いられることから、加熱乾燥を行わずに乾燥可能か確認をした。漆風呂は、木製の棚であり特に温度制御をしているものではない。漆製品は漆風呂に置かれることで少しずつ乾燥・硬化する。産総研の実験において通常60 ℃、3分かけていた紫外線硬化樹脂シンナー分散合成有機化粘土分散光重合開始剤(紫外線吸収剤)分散バーコーターで塗工乾燥紫外線硬化紫外線硬化装置図4 保護膜付与手順40 g35 g30 g25 g図5 有機化粘土の添加量と液の状況図中の数値は、樹脂30 gに対して添加したSPNの量である。第58回粘土科学討論会講演要旨集、A6、2014年より転載。

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