Vol.11 No.2 2018
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研究論文:食洗機対応伝統工芸品「ナノコンポジット玉虫塗」(蛯名ほか)−70−Synthesiology Vol.11 No.2(2018)2 高耐久性漆器開発のシナリオ玉虫塗は、下塗り、中塗り層の上に、銀粉撒きを施した半透明層を付与し、さらに染料を含む半透明上塗り層を付与した構造を有する(図1)[3]。下塗り、中塗り、上塗り層は、用途によって、本漆、カシュー塗料、あるいはウレタン塗料を用いる。入射光が、染料を含む上塗り層を透過し、銀粉で散乱し、再び上塗り層を透過することで、染料の種類により、赤、緑、青、黒味を帯びた反射光に基づく特徴的な深みのある外観を呈する。しかし、漆器は表面硬度が低く、鉛筆硬度試験でF程度である[1](一般的なハードコート塗工層は3 H以上)。一方、産総研では、粘土等の無機材料と有機材料をナノレベルで混合した材料技術を有している[4]-[6]。この研究ではこの技術を表面保護層として適用して、耐久性に優れた伝統工芸品へと展開する。提案する新規玉虫塗の構成を図1に示す。目的性能を具備するためには、微細構造として次のような構成が考えられる(図2)。膜中において粘土が微細粒子として均一分散することで高透明なコーティング膜とすることが可能である[7]。ナノコンポジットハードコート剤において、粒子径が1 µm以下の時に耐摩耗性が向上することが報告されている[8]。また、不安定な分子を粘土結晶に固定することで安定化させる効果がある[9]ことから、紫外線吸収剤が粘土に付加した形にすることで、紫外線吸収剤の安定性を向上させ、高い耐紫外線性を実現できると想定した。東北工芸製作所は従来刷毛塗で漆器を製作していたが、昭和30年頃から伝統的漆器としては先駆けてスプレーで行うようになった。現在、グラス、花瓶、皿等形状の異なる製品に対してスプレー塗工による生産を行っている。特に複雑形状の製品に全面に均一塗工することは高い技術が要求され、東北工芸製作所の長い経験に基づいた塗工技術が本開発に生かされた。本開発は、産業技術総合研究所のラボ内検討と、東北工芸製作所のサンプル塗工を繰り返し、最終的には玉虫塗としての総合的な美観や塗工条件とのバランスから材料組成が決定され成し遂げられたものである。3 高耐久性漆器の開発3.1 保護層の設計玉虫塗の保護層として、まず有機、無機、有機無機コンポジットの三種を想定することができ、それぞれ候補材料を選定し初期評価することにした。有機材の候補として、アクリル樹脂等いくつかの樹脂を用いた場合には、ペーストの長期安定性は優れているものの、目標とする鉛筆硬度3 Hの表面硬度を実現することはできなかった。次に無機材であるシリカコーティングを検討したところ、こちらでは室温のプロセスのみで表面硬度3 Hを確保した。しかし、ペーストの安定性が悪いという難点があった。そのため、ペー図1 従来の玉虫塗の構成と新規に提案する玉虫塗の構成図2 保護膜の想定される内部構造と光学特性下塗り・中塗り層銀撒き層上塗り層保護層木製定規従来新規提案断面表面可視光は透過紫外線は吸収透明な樹脂と細かく均一混合透明ナノコンポジット紫外線吸収剤

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