Vol.11 No.2 2018
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研究論文:我が国における5万分の1地質図幅整備(宮崎)−67−Synthesiology Vol.10 No.2(2018)査読者との議論議論1 全体についてコメント(牧野 雅彦:産業技術総合研究所)地質調査総合センター(地質調査所)創立135年の歴史を振り返り地質図整備のシナリオを記述することは意義深い。この論文は、国土の基本情報として経済発展に必要な地質図の整備のために地質調査所が設立された経緯を述べ、時代の要請によって縮尺が20万分の1、7万5千分の1、5万分の1とより精密な地質が作成され、社会的に利活用されてきたシナリオを総括している。高品質・高精度の地質図が、インフラ整備あるいは産業施設の立地計画作成、資源開発および減災のための基礎資料として社会的に大きな便益を生み出してきた。また、野外調査では地質構造に関する仮説を立て、野外調査でこれを検証し、修正していく作業を絶えず繰り返し行うことによって地質図の精度をさらに高める。地質図作成で得た学術的に新規な知見は研究論文として公表される。例えば、5万分の1地質図幅「御油」において、白亜紀当時の地殻は深度10 kmで500 ℃から深度20 kmで800 ℃と非常に高温であること、このような高温の地殻は、火山弧の下で、メルトが輸送する潜熱で高温地殻が形成されうることを熱・移流モデル研究で明らかにし研究論文として公表された。このように野外調査と研究を統合して地質図と地質構造発達史を構築する。これらの地質図の整備は国土の基本情報として重要であり、シンセシオロジー論文として適切であると考える。コメント(松井 俊浩:情報セキュリティ大学院大学)日本の地質図が整備されてきた歴史を概観し、いくつかの地域を例に取り上げて精密な地質図を作る方法が述べられている。著者らの地質図整備の継続的なご尽力には頭が下がる。シンセシオロジーの論文としては、これらの知的財産整備が、いかに日本の安全とイノベーションに貢献してきたかにも興味がある。イノベーションは、新しい思いつきとして語られることが多いが、著者らの成し遂げられた知識の継続的な蓄積こそが、「変化」のバックボーンとして働いたのではないかとの予感がある。議論2 地質図幅整備の目的についてコメント(牧野 雅彦)全体シナリオで産総研の中期計画について記述されていますが、その前提である国の知的基盤整備計画の記述がありません。また、シームレス地質図の縮尺は20万分の1であることが記述されておらず5万分の1と誤解を与えるかもしれません。各時代の地質図イメージの比較があると歴史的変遷や内容の発展充実が分かりやすくなると思います。回答(宮崎 一博)産総研になってからの地質図幅の整備と国の知的基盤整備計画との関連を加筆しました。シームレス地質図の縮尺についての記述を加筆しました。また、社会からの要請として地質図幅の全国完備があり、実際に7万5千分の1の整備計画までは全国完備が目標としてあったことを記述しました。この論文の主題である5万分の1地質図幅に関しては社会的な要望として全国完備があるものの現実的にはこれが難しいことを述べました。戦後始まった5万分の1地質図幅整備では、北海道地域や地震の特定観測地域等特定な地域を集中的に整備していたと言えます。この論文にコメントのあった20万分の1地質詳図と現行の20万分の1地質図幅の比較を加えました。前者は1884年発行の地質図で、後者は2010年代に発行されています。この間の地質図の内容の発展的充実を示していると思います。コメント(松井 俊浩)日本の地質図作成の歴史を俯瞰している記事として読み応えがあります。しかし、やや淡々と書かれており、地質図は何のために作られ、どんなイノベーションを誘発してきたのかというシンセシオロジーらしい記述が足りません。資源開発や国土安全に簡単に言及されていますが、「いかに必要であるかという意見書」として参照されるだけでは価値がよくわかりません。現在、インターネットや、カーナビ、スマートフォンの発達で、地表の地図は、たいへんなイノベーション価値を生んでいます。地質図は、そのようなイノベーションを開拓する力を秘めているのでしょうか?これは、論文のサブタイトルにある地質図整備のシナリオのゴールが何なのかという質問でもあります。ゴールは、具体的な、一つのイノベーションである必要はありません。というか、知的基盤整備とは、決してそのような狭量なものではないはずです。地質図が、いかに産業と社会の豊かな「基盤」になるかをご説明下さい。回答(宮崎 一博)地質図利用の具体的な例として、地質図の利活用事例を引用して使われ方を加筆しました。難しいですが、地質図を使ったイノベーションは可能性だと思います。関連して、新たに「2 社会における地質図の役割」を加筆しましました。その中で高品質・高精度の地質図を整備し、これが利用されることで社会全体に対する便益を生むことを記述しました、この例のように、高品質・高精度の地質図を整備することで、社会全体に便益を生むようなイノベーションを行うことは可能だと考えます。議論3 地質図の解説についてコメント(松井 俊浩)野外地質調査と室内研究を元にする地質図と、既存史料の編纂から作成する地質図の2種類の地質図が解説されています(独自の調査によって作成する地質図とは前者のことでしょうか?対応が不明確です)。もしこの対比が重要なのであれば、2種類の図の実例を示し、その差異を解説して下さい。回答(宮崎 一博)5万分の1地質図幅では、東西約24 km×南北約19 kmの範囲の地質が詳細に区分されており、地下約500 mまでの地質断面図も描かれています。さらに、70ページから100ページの研究報告書がセットになり出版されます。研究報告書には地層・岩体の詳細な記載情報が掲載されています。この論文にも書きましたが、5万分の1地質図幅は1図幅当たり、約250日の野外調査を行い、室内実験等も含めて原稿完成まで3-5年の研究を行います。一方、20万分の1地質図幅は、既存の5万分の1地質図幅、および学術誌等で公表された地質図を編集して作成します。これに若干の野外調査を行い原稿を完成します。20万分の1地質図幅は5万分の1地質図幅16枚分の面積を1枚でカバーし、その地域の地質の概要を知るのに適しています。質問・コメント(松井 俊浩)地質図作成は、どのような調査、観測法、推定法によって行われ、何に主要なコストが要するのでしょうか?同時に、地質図の利用と作成の両面から、地質図の縮尺の持つ意味、特にタイトルにある「5万分の1」の意味を解説して下さい。精度の評価はどのように行うのでしょうか。衛星写真等でグローバルマップが収集できる地表の地図と、ボーリングを行う3次元地質図作成法の対比もあるとよいでしょう。また、明治~昭和の日本国土版図の変化にも言及が必要かも知れません(縮尺の大きな地質図とは、細密なのでしょうか、粗略なのでしょうか、紛れないように記述下さい)。4.2に地質図作成の方法が書かれていますが、ここで得られた知見は、どのような産業的・社会的価値を創造する可能性がありますか?回答(宮崎 一博)5万分の1地質図幅作成では、野外調査に最も時間がかかります。縮尺の持つ意味については「2 社会における地質図の役割」のとこ

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