Vol.11 No.2 2018
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研究論文:我が国における5万分の1地質図幅整備(宮崎)−65−Synthesiology Vol.10 No.2(2018)Initial average ux: Duration:⑤ 変成帯形成の熱・移流モデリング3.57×10-3 m3/(yr m2)5-10 m.yr三河領家の計算結果メルトフラックスメルト移流継続時間計算結果と観測結果計算結果と観測結果D(km)D(km)図15 室内研究における変成帯(三河高原領家変成岩)形成の熱・移流モデリング[8]の例見出しの番号は図9中の番号に対応。詳細は文献[8]を参照。油」図幅内には、白亜紀当時の深度20 kmから10 kmの地殻断面が露出しているのである。同時に、当時の地殻は深度10 kmで500 ℃から深度20 kmで800 ℃と非常に高温であったこともわかった。このような高温の地殻は、恐らく火山弧の下であろうと予測を立て、メルトが輸送する潜熱で高温地殻が形成されうることを熱・移流モデルで明らかにした(図9の⑤と図15)。このような熱・移流モデルは、この地域の見かけ下部に広く分布するミグマタイトの産状も説明でき、領家変成岩の地質構造発達史(図9の⑥)を包括的に構築することに成功した。このように野外調査および室内研究を統合して地質図と地質構造発達史を構築していき、最終的に地質図は5万分の1地質図幅「御油」[7](図9の⑦と図16)として出版する。学術的に新規な知見は研究論文[8]として公表する(図9の⑧と図16)。以上が5万分の1地質図幅作成のシナリオである。5 5万分の1地質図幅整備の今後地質調査所における地質図整備の歴史を振り返り、地質図幅整備の全体シナリオの変遷を見てきた。明治から戦前までは、オリジナルな地質調査による地質図幅の全国完備が目的であり、20万分の1地質詳図の完備、7万5千分の1地質図幅の整備が進められた。後者は第二次世界大戦と戦後の5万分の1地質図幅への切り替えもあり、完備が達成されなかった。戦後、図幅利用者の利便性や精度の要求から、オリジナルな調査に基づく地質図作成は5万分の1地質図幅に引き継がれる。ただし、5万分の1地質図幅は1274区画が全国に存在し、これを100年未満の年月で完備することは現実的に不可能となった。昭和30年代から続く、5万分の1地質図幅整備の歴史を振り返ると、初期には北海道に地域を限定することで、集中的な整備が行われている。1980年代以降は特定地質図幅の時代も、複数の地域ではあるが地域を限定した集中的整備が行われた。特記すべきは、地域を限定し、その地域の地質図幅を集中的に作成することの社会的使命を明確にすることで、結果的に地質図幅の整備が進んだことである。産総研になってから以降は、20万分の1地質図幅の全国完備と利便性を考慮した20万分の1シームレス地質図とその次世代版の作成が整備計画の中心的な役割を果たしてきた。これらは一定の成果を上げている。即ち、シームレス地質図の利用者の著しい増加である。次世代20万分の1シームレス地質図[9]では、凡例の階層化と構造化を行ったことから、今後の地質図のオープンデータ化への対応も可能になった。しかし、我々がオリジナルに調査を行い作成する5万分の1地質図幅の作成枚数は少ない状態が近年続いている(図5)。地質図幅の体系整備の枠組みは一通り整ったことから、5万分の1地質図幅整備の全体シナリオを再度構築するべき時期に来ている。即ち、20万詳細図の当初完備計画が12年(実際には40年を要している)、7万5千分の1全国完備が40年(実際には未達成)、特定地質図幅が約20年の長期計画として策定されあるいは実行されたことを考えると、20年程度の長期を見据えた全体シナリオを立てることが適当と考えられる。さらに、地質図幅の品質を担保するために、5万分の1地質図幅作成の個別シナリオが重要になる。個別シナリオは対象となる地域に大きく依存する。全体シナリオと対象地域全ての個別シナリオを調和させることは困難なことかもしれない。しかし、地質図幅整備は今後の社会の持続可能な発展のためには必要不可欠な基盤情報であることに変わりなく、実際

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