平成30年度研究評価委員会(エレクトロニクス・製造領域)評価報告書
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STOは先行技術であるフィードバック回路を有する光学振動子と比べ、短時間記憶容量は同等以上の性能を有し、集積度の面で数桁優れている。さらに、4個のSTOからなるニューラルネットワークを用いて7つの母音の音声認識を行い、90%という高い認識率を実現した。これら一連の研究成果についてNatureおよびNature姉妹誌に5報の論文を掲載した。平成31年度は、複数のSTOの同期現象を活用したニューロモルフィックコンピューティングの基盤技術を確立する。 ●相変化/トポロジカル材料による不揮発メモリ、新奇デバイスの開発 数多くのハードディスクドライブから構築された従来のデータセンターは、ドライブモーターの回転に大電力を必要とし、Googleなどのデータセンターではすでに原子力発電炉1基分にも達していると言われている。IoTによる大量データ「ビックデータ」の蓄積問題と、これらを利用する新規ビジネスやサービスは電力消費問題ともはや無縁ではない。またそれらの活用と解析には、大量のデータを瞬時にハードディスクから取り出す必要があるが、ハードディスクドライブに依存するデータセンターは処理速度が限界に来ている。このため、データセンターの省エネ化と、蓄積されたビックデータの高速解析を可能にする不揮発性メモリの開発が加速し、相変化メモリは市場規模が急速に拡大している。平成23年に発表した「超格子型相変化メモリ(interface Phase Change Memory: iPCM)」すなわち相変化メモリに利用されている相変化合金(GeSbTe)を、GeTeとSb2Te3の薄膜を交互に積層して作製したメモリにおいては、従来比で消費電力を1/10から1/100に低減できることが可能である。本技術は産総研が基本特許をもつ独自のコア技術であり、企業との共同研究が実施されてきた。 平成27-29年度は、100 nm以細のiPCMセルを作製し、低電圧(<1 V)スイッチング、および従来型の相変化メモリでは実現不可能であった電圧極性を変えてもスイッチングする「バイポーラ動作」を実現した。また平成30年度には大手企業との共同研究において、産総研のスーパークリーンルームを用いて、300 mmスケールでのiPCMデバイス製造に成功している。平成31年度は、相変化メモリの超高密度化と高速動作をサポートするセレクターと呼ばれるメモリセル選別素子の開発を進める。 また、iPCMは本来非磁性材料が用いられているが、室温で大きな磁気抵抗変化が発見されたことから、この新規物性の応用に向けた研究開発として、JST-CREST(平成26-31年度)に採択されiPCMの基礎物性解明にも取り組んだ。その結果、「トポロジカル相転移」と呼ばれる、積層薄膜内に形成された特殊な電子バンド構造が磁気特性を誘起することを見出した。平成30年度は、この現象を応用した「電子スピン蓄積デバイス」の開発を進めた(誌上発表 計10報)。CRESTの最終年度となる平成31年度は、目標とした電子スピンを利用した電場と磁場の両方で機能する多機能電子デバイスを実証する。 ●電圧書き込み型MRAMの基盤技術開発 ITやIoT機器の省電力化を目指して、書き込み動作が超低消費電力かつ高速の不揮発性メモリとして期待される電圧書き込み型MRAM(Magnetic Random Access Memory)「電圧トルクMRAM」の基盤技術を開発した。 平成27-29年度は、新規開発のIr希薄ドープFe合金電極を用いてMTJ素子(MRAMの記憶素子)の電圧磁気異方性変化率(電圧で磁気異方性を制御する効率 Voltage-Controlled Magnetic Anisotropy: VCMA係数)400 fJ/Vmを達成するとともに、書き込みパルス波形制御などにより書き込みエラー率10-6台の安定動作を実現した(ともに世界最高性能)。平成30年度は、量産に適したスパッタ成膜法でIr希薄ドープFe合金電極を作製するプロセスを開発し、さらに10-6未満の低い書き込みエラー率を達成するとともに、書き込み可能な電圧パルス幅の領域を倍増することに成功した。平成31年度末は、量産プロセスに適合した実用MTJ素子を用いて書き込みエラー率 ≦ 10-7(エラー訂正なし)、および、≦ 10-14(エラー訂正あり)を実現し、電圧トルクMRAMの基盤技術を確立する。 ●新超伝導材料の開発 超伝導材料を用いた産業応用は、永久電流磁石でMagnetic Resonance Imaging(MRI)やリニア- 15 -

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