平成30年度研究評価委員会(エレクトロニクス・製造領域)評価報告書
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の対応を行う。 中長期的には、連携研究室がさらに増えていくことが予想されるため、それぞれの研究室で行われている研究内容の守秘と、産総研に集う多様な人材の間での情報交換や技術融合とのバランスをどのように取り、産総研を魅力あるオープンイノベーションの場としていくのかも組織マネジメント上の重要な課題である。これについては、産総研に連携研究室を置いたことを各企業がどのように評価しているかを聴き取る機会を定期的に設け、イノベーション推進本部やTIA推進センターとも連携しつつ、連携研究室制度の改善を図る。 2.「橋渡し」のための研究開発 (1)「橋渡し」につながる基礎研究(目的基礎研究) 【背景・実績・成果】 目的基礎研究においては、2030年以降の社会や産業における情報処理の将来像を見通し、そこで求められるハードウエアの高性能化と高効率化を目指すテーマを中心として研究を推進した。 ●量子コンピュータ・量子アニーリングマシンの基盤技術開発 Society5.0社会の実現には、大規模データの高速処理が可能な、非ノイマン型コンピュータの実用化が急務である。超伝導量子アニーリングマシン、超伝導量子コンピュータ、シリコンプラットフォーム上での集積化に有利なシリコン量子コンピュータは、その有力候補として注目されており、産総研独自に開発を進めた。 平成27-29年度は、シリコン量子コンピュータにおける安定なスピン量子ビット実現のため、トンネルトランジスタ(Tunnel Field-Effect Transistor: TFET)とシリコンへのドーピング技術を開発し、シリコンスピン量子ビットの動作温度の世界最高値を100倍更新する10 Kという高温での量子ビット動作に成功した。超伝導量子アニーリングマシンに関しては、大規模集積に適した新規アーキテクチャを開発した。平成30年度は、シリコン量子コンピュータのTFET量子ビットを構成する2つの量子ドットの独立制御に成功し、量子計算技術の将来の大規模化を見込んだ要素技術の開発を推進した。超伝導量子アニーリングマシンでは、日本初、かつ先行するD-Wave Systems社(2000量子ビット)に次ぐ世界2位の集積度(50量子ビット)を有するチップの作製に成功した。平成31年度は、複数チップを接続するため、超伝導材料によるバンプを用いた実装技術である超伝導フリップチップ接続を実現し、超伝導量子アニーリングマシン向け3次元実装技術の基盤を確立する。また、TFET量子ビットの実用性能項目の1つである量子ビットが情報を保持している時間であるコヒーレンス時間の評価実験を実現し、同素子による量子計算の実現可能性を明らかにする。 ●スピントルク発振素子を用いたニューロモルフィック回路の基盤技術開発 磁気トンネル接合素子(MTJ素子)に直流電流を流すと、磁性電極層の強磁性共鳴(マイクロ波帯域の磁化歳差運動)によるマイクロ波発振機能(スピントルク発振素子 Spin-torque oscillator: STO)が得られる。STOは共振回路を必要としないナノサイズの発振素子であり、超微細かつLSI集積化が容易、広帯域で周波数可変など、半導体を用いた従来型発振素子にはない特徴を有するため、通信機器や車載レーダーへの応用が期待されている。実用化を目指してSTOの高性能化に取り組むとともに、STOを用いた新しいタイプのニューロモルフィック回路(脳活動の仕組みをヒントとして作られる超低省費電力の演算回路)を開発した。 平成27年度は、STOの周波数安定化に不可欠な位相同期回路(Phase-Locked Loop: PLL)を世界に先駆けて実現した。平成28年度は、世界最高値かつSTO実用化の目途となる10 µWの発振出力を達成した。平成29年度は、STOを人工ニューロン素子として用いたニューロモルフィック回路を考案し、これを用いた音声認識に成功した。平成30年度は、ニューロモルフィックコンピューティング(脳の活動を模倣した演算手法)の基盤となるSTOのショートタームメモリ(短時間記憶)特性の評価に世界で初めて成功し、単一の発振素子で短時間記憶容量3.6を実現した。- 14 -

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