産総研レポート 2015
16/66

14研究開発の推進組織統治研究開発の推進労働慣行公正な事業慣行社会との共生人 権環境報告単層カーボンナノチューブによる新産業創出へ カーボンナノチューブ(CNT)は、軽さ、強度、柔軟性、耐食性、耐熱性、熱伝導性など数々の優れた物理的特性を兼ね備え、幅広い応用範囲が見込まれる新素材です。産総研では、単層CNTの画期的な合成技術「スーパーグロース法」を開発。日本ゼオン株式会社と共同で量産化と実用化に成功し、日本発のCNT産業創出が期待されています。合成効率1000倍、量産化に挑む 単層CNTは幅広い分野での応用が期待されながら、合成効率、不純物、コストなどの問題で実用化に至っていませんでした。そうした課題を同時に克服したのがスーパーグロース法です。 開発リーダーの畠 賢治は、ハーバード大学でのポスドク時代に、CVD法(化学気相成長法)による世界トップレベルのCNT合成スキルを修得しました。産総研に入所した翌年の2004年に、CVD法を改良したスーパーグロース法の開発に早くも成功、単層CNTの合成効率を一気に1000倍にまで向上させました。 「この合成法のポイントは、極微量の水分を添加したことです。単層CNTの合成効率が悪いのは、触媒が炭素に覆われて働けなくなるためでした。そこで、炭素源(エチレン)と覆われた炭素を除去する酸素源(水)を別々に加えれば、触媒の活性を保てると考えました。アイディア自体は非常に簡単です」 スーパーグロース法は米国科学誌『サイエンス』に掲載されました。畠はその翌月には、量産化に挑むことを決意したといいます。「スーパーグロース法を連続化してスケールアップすると、その当時世界中の生産量を足したよりも多くの量を1台の合成装置で作れると予測できたことが決め手の一つです。もう一つは、スーパーグロース法で作った単層CNTには、非常に長い、比表面積が広い、純度が極めて高いという既存のどんな材料よりも優れた3つの特長があります。こうした特長がなかったら、実用化に踏み出さなかったでしょう」量産化と用途開発の両方に成功 実用化は、どのように進められていったのでしょう。まず、当時の上司であった首席研究員湯村守雄の尽力により「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」(NEDO、2006〜2011年)が立ち上がり、大量合成技術を開発するための資金を獲得しました。 また、2006年に日本ゼオン株式会社との共同研究が決定。大面積合成、連続合成、触媒塗布、基盤の再利用など、量産システムに必要な技術要素を一から作り上げていきました。特に実用化に向けてコストダウンは最重要課題でした。この共同研究が実り、2015年12月には日本ゼオンの工場が完成し、いよいよ量産化が始まります。それでも「これまでの10年間はウォーミングアップ、工場完成はマラソンのスタートラインに立ったようなもの」と畠は言います。今後もさらなる性能向上とコストダウンの研究は続きます。 さらに、同プロジェクトにはスーパーキャパシタ開発がテーマに盛り込まれました。「当初はわかっていませんでしたが、実はスーパーグロース法の単層CNTは理想的なキャパシタ電極になります。2016年には日本ケミコン株式会社から製品化され上市される予定です」 この国家プロジェクトは、量産化と用途開発の両方を同時に成功させた貴重な事例となりました。ナノチューブ実用化研究センター 研究センター長畠 賢治(はた けんじ)研究特集:産総研の橋渡し研究

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る