産総研LINK No7
5/16

このような巨大な価値を生み出す「まほろ」であれば、需要は多く、事業化も容易だと思われた。しかし、実際の道のりはとても困難だったと言う。 「この技術を橋渡ししようにも、渡す相手がいなかったのです」 理由はいくつかあった。まず、世界初のバイオメディカル研究開発用ロボットなので、そもそも送り出すにも市場が存在していなかった。そして先に述べたように、ライフサイエンスの研究現場に、それまでのロボットへの不信感があった。大手企業も「まほろ」の可能性に注目したが、市場ゼロからの事業創出に投資することに二の足を踏んだ。橋渡しは受け取ってくれる相手がいてこそできることなのだ。 「この技術を橋渡しするには、まず、この世界に合ったビジネスモデルをつくり、市場を創出するところから始めなくてはならない。それはベンチャー企業でやっていくしかないと、私は考えました」 その夏目の思いを出発点に、2015年、国と産総研、安川電機、それに投資グループも巻き込んだ「ロボティック・バイオロジー・インスティテュート(RBI)」が、間取り組み続けてきた実験を「まほろ」が1回目で成功させた事例や、100回に1回の成功率だった難しい実験を100%の成功率で行えるようになった事例も、すでに報告されている。例えば、iPS細胞を筋肉や神経に分化させるときには、細胞を一つ一つはがして植え付ける作業が必要となるが、このような繊細な作業の精度は人間より格段に優れている。 この事実は、実験が成功してよかった、という単純な話では終わらない。 「その成功した動作システムをパッケージ化すれば、世界中のどこでも、誰でも、いくらでも共通のプロトコルで実験でき、共通のデータを得られるようになるわけです」 これまで人間にできなかった非常に高い精度の実験が、人間の技量や研究設備に縛られることなく、常に同じ高精度で安定的に再現できる。このインパクトは大きい。 「まほろ」の秘める可能性はそれだけではない。ライフサイエンスの研究現場では試行錯誤が多く、時間も費用も膨大にかかる。うまくいかずに、結果として多くのコストが無駄になることも珍しくない。しかし、数年かかるはずの研究をスピーディーに遂行できれば、その間の人件費や研究費を大幅に節約できる。それ以上に重要なのは、ロボットがベンチワークを確実に代行してくれれば、人間はその時間に別の研究活動を行うことができ、新たな研究成果を得られる可能性が高まるということだ。 「そのように得られた結果が速やかに論文化され、新薬の創出にまでつながれば、『まほろ』が生み出す価値は計り知れないと言えます。人間が知恵を出し、ロボットが人間にできない精度で作業をする。そのような協業が普及すれば、ロボットの存在を前提にした発想も可能になり、ライフサイエンスの世界は一変するでしょう」 この事業のビジネスモデルの要点はそこにあると、夏目は考えた。橋渡しする相手がいなければ市場の創出から始めよう産総研 ロボティック・バイオロジー・インスティテュート05 2016-07 LINK

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る