産総研LINK No7
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●ここにもあった産総研自動運転技術開発に見る産総研の歩み世界初、コンピュータビジョンを用いた自動運転システム搭載の「知能自動車」を開発近年、自動運転車の研究開発には自動車メーカーだけでなくIT企業も参入し、大変な盛り上がりを見せているが、実は自動運転車の研究開発の歴史は長い。1939年、米国のゼネラルモーターズ社によって初めて、自動運転システムは提案された。事故と渋滞の防止を目的に、本格的な研究が始まったのが1950年代だ。この米国の動きを受け、日本でも1960年代から研究がスタートした。最初に手がけたのは通商産業省工業技術院機械技術研究所、つまり現在の産総研だ。全国の乗用車の保有台数がまだ46万台弱と、現在の保有台数の約1%しかなかった時代のことである。産総研の自動運転技術開発の歩みを追う。自動運転システムを搭載した「知能自動車」を開発し、1978年には時速30 kmの走行実験に成功した。コンピュータビジョンのうち2台のカメラで距離を計測する方法は、ステレオビジョンと呼ばれ、現在のぶつからない車に使われているセンサーや車両の制御技術の先駆けと言える。 さらに、1980年代前半からは、センサーなどからの情報を得て車体の位置を測位する機能が追加され、コンピュータビジョンで障害物を検出し、測位機能と走路の地図データベースを用いて自動走行するシステムができあがった。この知能自動車に関する津川定之(当時・工業技術院機械技術研究所)らの論文は2000年代になっても引用され、ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)分野におけるAVCSS(Advanced Vehicle Control and Safety Systems:先進車両制御安全システム)の基礎になる研究として、その後のコンピュータビションを用いた運転支援システムの実用化や、自動運転技術の進展に少なからぬインパクトを与えたとされている。 一方、渋滞を避け、安全な運転をサポートするための運転支援システムの開発も進められた。この運転支援システムの先駆けとなったのが、産総研が企業とともに経済産業省の大型国家プロジェクトで開発したCACS(Comprehensive Automobile traffic Control System:自動車統合管制システム)だ。この技術は、現在広く使われている渋滞や目的地までの所要時間などの情報を随時カーナビに送信するVICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)の前身となっている。道路に埋めた電線で車両を誘導 1960年代、産総研が開発したシステムは、走行経路の道路に電線を埋め、そこに電気を流して発生した磁界を検知することで、ハンドルを制御して車両を走らせるというものだった。現在のような小型で十分なスペックをもつコンピュータがない時代、研究者は電線を流れる電流量などを計測する電子回路や、その信号を処理するシステムを一から手づくりしたという。このシステムによる「自動操縦車」は、1967年には時速100 kmの自動走行に成功している。 この方式は現在、ゴルフ場のゴルフカート自動走行システムや工場内の自動搬送システムに受け継がれているが、道路にケーブルを埋設し電気を流す必要があるのに加え、車両の真下からの信号を受けて走るため、少しでもずれが生じると走行が不安定になるという欠点があり、高速で走る自動車などに展開できる技術ではなかった。 そこで1970年代に産総研が始めたのが、カメラで撮影した画像から距離を算出して、路上の3次元物体(ガードレール)を検出する方法である。1977年産総研は、このように車両前方の情報をコンピュータビジョンによって認識・処理して走る世界初のITSの先駆けとなったコンピュータビジョンによる自動運転システム1882年の地質調査所設立に始まり、前身となる工業技術院時代から今の産総研に至るまで、130年を超える歴史の中で、社会に送り出してきた研究成果を紹介します。※文中で、工業技術院など前身の組織名を「産総研」と表記している場合があります。14 LINK 2016-07

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