産総研LINK No.26
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は、機能や性能を評価した。分子構造を修飾して新たなイオン液体をつくろうとしても、固体になってしまったり、合成したイオン液体の性質が目指すものと異なったりなど、仮説通りにいかないことも多かったという。 イオン液体を精密に評価する計測機器も、既製品に適当なものがなければ自分たちでつくった。同グループには多種多様な測定装置が備えられているが、高圧下でプロセス評価を行う装置についてはかなりの数を独自で開発している。それを可能とする産総研の高度な物性計測技術が、新しいイオン液体を設計するときのベースともなった。 合成と評価を繰り返す中で、イオン液体に少し手を加えると、CO₂をとてもよく吸収するようになることが明らかになった。  「これには驚きました。当時、イオン液体にCO₂が多量に溶け込むということは、まだよく知られていなかったのです。この新しい現象に基づき、イオン液体を用いてCO₂を選択的に吸収させて分離し、回収するプロセスに応用できるのではないかと思いました」 イオン液体を用いることで、CO₂の分離・回収にかかるエネルギーコストを抑えられるのではないか。金久保はそう考えた。 そのためにはまず、CO₂を効率よく吸収・分離するイオン液体を開発する必要があった。CO₂を選択的かつ多量に吸収する分子構造は何通りも予想され、金久保らはそれらを合成しては、高圧をかけたときにCO₂がどのように吸収されるかをさまざまな方法で観察し、目の前で起きている現象の理解を深めていった。 「そのうち、どのような分子構造のイオン液体がより多くのCO₂を吸収するのか、どのイオン液体が温和な条件でCO₂を放散しやすいのかがわかってきました。そこで、イオン液体の組み合せや分子構造を少しずつ変えていくことで、CO₂はもちろん、水蒸気などそれ以外のガスについてもよく吸収するイオン液体を設計 「私たちはもともと、化学プロセスに 用いられる有機溶媒を超臨界CO₂に置き換える研究を行っており、超臨界CO₂相に溶出しない触媒機能などを持ったイオン液体を組み合せることで新しい化学反応場ができるのではないか、と考えました。そこで、イオン液体に高圧CO₂を作用させた時にどのようなことが起こるか?などという素朴な疑問を明らかにすることから研究をスタートさせたのです」と産総研化学プロセス研究部門コンパクトシステムエンジニアリンググループの金久保光央は言う。 産総研が着目したイオン液体。一般的にはあまり耳なじみのない言葉だが、実は1990年代に発見されて以来、化学の世界で期待と注目を集め続け、研究開発が盛んに行われている化合物だ。 イオン液体とは一言で言うと塩である。といっても食卓塩(塩化ナトリウム)のような身近にある塩とは違う。イオン液体は、室温で液体になるように、有機構造を持たせた塩なのだ。食卓塩は無機塩だが、イオン液体は有機構造をもち、融点が室温以下になるように設計された塩である。 食卓塩のような無機塩は陽イオンと陰イオンが格子状にしっかり結びついているので室温では簡単に融けることはなく、固体である。しかし、塩に有機構造を持たせると融点が非常に低くなり、液体の状態を安定に保てるという画期的な発見がなされた。イオンのみで構成されるその塩は、「イオン液体」と名づけられた。 金久保らのグループは、イオン液体の溶媒としての性質に注目し、さまざまな陽イオンと陰イオンからなるイオン液体を合成して オリジナルのイオン液体を100種類以上開発 ■ イオンのみから構成され、室温近傍以下に融点を持つ液体の塩-17℃融点低高イオン種のサイズ大小84℃100℃372℃801℃技術を社会へつなげるコミュニケーション・マガジン9

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