産総研LINK No.26
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の方向で研究開発してはどうだろうか」と、髙橋から話を切り出されたとき、即答はできませんでした。私が返事をしたのは1週間ほど後だったと思います。その間、理論的にいけそうか、マーケットはありそうかなどについて、私自身でも調べていたのです。その結果、理論的にもマーケット的にもいけそうだ、やってみよう、ということになりました。有用であり、有害でもあるアンモニア髙橋 アンモニアは世界で年間に1.7億トン生産されている有用物質であると同時に、トイレ、畜産業の施設、病院や介護の現場で発生し、悪臭のもととなる有害物質でもあります。しかも悪臭防止法で特定悪臭物質(不快なにおいの原因となり、生活環境を損なうおそれのある物質)に指定されているほどで、10 ppmv程度、つまり1リットルの空気中に十万分の1リットルのアンモニアが含まれる濃度でも強い臭気を発します。日本産業衛生学会は、人の労働環境におけるアンモニア許容濃度を25 ppmvと定めています。このような有害物質であるアンモニアの扱いに困っている現場はすでにさまざまなところにあり、その吸着・脱臭には確実に用途があると考えました。川本 髙橋はもともと肥料としての窒素の回収に興味があり、その点からもアンモニアに注目していたのです。髙橋 近年、大気汚染物質のPM2.5が問題になっていますよね。アンモニアもPM2.5の原因物質です。工場や自動車の排気ガスに含まれる窒素酸化物や硫黄酸化物が大気中でアンモニアと結びつくことでPM2.5が発生します。PM2.5を減らすために、私はその原因となる窒素を効果的に回収する方法を見つけたいと考えていました。アンモニアの排出量を減らせれば、PM2.5の発生も減らすことができます。つまり、直接悪臭で困っていない人にとっても、アンモニアを除去することは意義があることだとわかってきました。 一方でアンモニアの排出量のうち、日本では全体の60%、EUでは49%が畜産業から排出されています。EUはすでにアンモニア排出量の削減目標を制定しており、今後は日本でも具体的な削減目標が定められ、環境問題対策としてアンモニアの回収技術が求められる可能性があると考えています。畜産業の現場で切実だったアンモニアの悪臭問題川本 アンモニア吸着技術の用途をいろいろ検討したのですが、私たちはまず、畜産業のアンモニア対策から研究開発をスタートさせることにしました。それは、現場の農家の方々と話しているうちに、皆さんが悪臭にとても困っているとわかったからです。実際に豚舎や堆肥化施設が近隣から受ける苦情の半分以上が臭いについてです。もともとの農地の近くに後から住宅地ができたような場合でも苦情を受けるそうですし、新たに豚舎をつくろうとすれば、臭いを理由に近隣から反対され、なかなか適切な土地が見つからないそうです。臭いの問題は畜産農家にとって非常に悩ましい問題でした。髙橋 現在、アニマルウェルフェア(動物の健康)と生産性向上の観点から、豚舎のアンモニア濃度を人間の労働環境と同じ25 ppmv以下に保つことが推奨されています。アンモニア濃度が高いと、人間のみならず豚にとってもストレスになります。高いストレスは、病気のリスクを増し、豚の生育のスピードにも影響する可能性があるのです。 豚舎内にこもった悪臭を逃すためには、もちろん換気をすればよいわけですが、窓を開けると悪臭が漏れ近隣からの苦情が増えますし、冬なら室温が下がるので、豚の生育に悪影響が出てしまいます。かといって換気をしなければアンモニア濃度が上がり、豚が病気にかかりやすくなります。だから換気をせずに悪臭を取り除く技術が切実に求められているのです。そこで私たちは、密閉環境で悪臭を除去できる脱臭材の開発を始めました。 NEW TECHNOLOGY 4 2019-09産総研

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