産総研LINK No.26
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材として機能することが明らかになりました。髙橋 水とアンモニアはよく似た性質があります。私は、水を取り込むのならアンモニアも取り込めるだろう、しかも、プルシアンブルーは手の空いた(配位不飽和な)金属イオンを結晶内部に持つので、理論上は水分子と同様にアンモニア分子も取り込めるはずだ、と考えました。1グラムのプルシアンブルーが何グラムのアンモニアを取り込めるのかということは、計算で求めることができます。そこで計算してみると、「これは高性能なアンモニア吸着材になる!」と確信できたのです。川本 「プルシアンブルーはアンモニア吸着材になると思う。そ髙橋 プルシアンブルーという物質は、葛飾北斎や歌川広重が使った紺青色の顔料として有名です。鉄と鉄がシアンを挟んでジャングルジム状につながった結晶構造を持つ物質で、もともとセシウムイオンや水分子をよく吸着する素材として知られていました。私たちは共同研究パートナーの関東化学株式会社(以下、関東化学という)とともに、このプルシアンブルーを悪臭物質であるアンモニアの吸着材として加工し、それをフィルターに用いた高性能な脱臭装置を開発しました。川本 そもそもの発想は東日本大震災後だったよね。髙橋 そうですね。プルシアンブルーをアンモニアの吸着材として用いるという発想は、2011年の東日本大震災後にセシウムの除去が課題となり、プルシアンブルーを用いたセシウムの吸着材を開発していた過程で生まれました。川本 セシウム吸着材としてのプルシアンブルーは、最終的に無機ビーズや不織布などさまざまなかたちで実用化されましたが、研究を始めた当初は、プルシアンブルーがなぜセシウムを選択的に吸着するのか、そのメカニズムまではわかっていませんでした。そこでプルシアンブルーの結晶構造やセシウム吸着作用について、詳細な観察と解析を行いました。すると、プルシアンブルーには0.5 nm程度の「空隙サイト(穴)」があちこちに空いており、その穴がセシウムイオンや水をよく取り込むことで吸着セシウムや水を吸着するならアンモニアも吸着できるはず 臭いを資源に再生する 髙橋 顕ナノ材料研究部門ナノ粒子機能設計グループ主任研究員Akira Takahashiナノ材料研究部門ナノ粒子機能設計グループ研究グループ長川本 徹Tohru KawamotoKEY POINT産総研はプルシアンブルーの結晶構造を改変し、粒状に加工して、アンモニアを効果的に除去する技術を開発した。結晶中の鉄を銅に置き換えることで安定に再生して繰り返し使用でき、コストの大幅な削減も可能となった。今後は豚舎や堆肥化施設など悪臭が発生する農業施設での実用化だけでなく、トイレ、ジム、病院、介護施設、さらに半導体工場などでの活用が期待される。■ 銅プルシアンブルーの結晶構造欠陥サイト空隙サイト-NC-0.5 nm鉄-CN-銅銅CN銅イオンにアンモニア分子が配位中央の「欠陥」部分に存在するはずだったプルシアンブルーの基本的な構成。なお、結晶構造の図では従来鉄に結合しているCとN(シアン)を省略している。格子の空隙にアンモニア分子を吸着▲技術を社会へつなげるコミュニケーション・マガジン3

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