産総研LINK No.26
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だ。当初はなかなか分離性能が出なかったが、前駆体の焼き方を変えるなど細孔サイズの制御法を模索し、かつ、企業でも応用の効く制御法を開発することでクリアした。 耐久性についても、最初は100時間程度使うとトルエンが目詰まりを起こし、急激に性能が落ちてしまっていたが、目詰まりしない適切な細孔のサイズを見つけて調整することで、長い時間安定的に水素を分離することができるようになった。 しかし、研究室で実現できても、実際に水素ステーションに用いるためのスケールへと大型化したときに、同じような高い性能が出るとは限らない。膜モジュールを大型化すればするほど、そのぶん欠陥も目立つようになるからだ。 「この膜の細孔サイズは0.3〜0.5 nm。穴の大きさがたとえ1 nmであっても欠陥となってしまいます。欠陥はゼロにはなりませんので、これをいかに高精度に検出して処理していくかが重要となります。NOK株式会社にはその技術開発に苦労していただきました」 そして分離性能を維持したまま膜モジュールを大型化することに成功。1 ㎥/h規模の水素生成能力をもち、一度の分離操作で燃料電池自動車に必要な純度を達成できる分離性能と、トルエンが存在しても長期安定性を示す大型膜モジュールが完成したのだ。 有機ハイドライドを用いた水素ステーションの実現はまだ先になるが、この炭素膜は水素だけではなく、二酸化炭素やメタンなど、水素以外のさまざまなガスにも応用が可能だ。また、化粧品などをつくるときにカルボン酸とアルコールを反応させてエステルを合成するが、そのときに出る水の脱水に用いることで、エステルの合成効率が飛躍的に高まることもわかっている。 「今後も省エネかつ低コストの水素ステーションの実現に向けて、炭素膜の量産化や大型モジュール化のための技術開発に注力していくと同時に、医薬品や化粧品などの分野をはじめ、炭素膜ならではの多様な用途を開発していきたいと思っています」炭素膜ならではの用途を探し続ける   分離膜にもいろいろな種類があり、有機物の高分子膜は実用化されているものもあるが、その分離性能はまだ十分ではなく、そもそも熱や有機溶媒にとても弱い。一方の無機膜は、シリカ、ゼオライト、炭素、そして金属有機構造体(MOF)など、いくつもの種類が開発されているが、実用化されたものはまだ一部にすぎない。また、無機膜は耐熱性や耐薬品性が高いといっても、分離対象に得意不得意があり、一つの膜ですべてをカバーすることは難しい。この点で、炭素膜の強みは耐薬品性と優れたガス選択性にあり、他の無機膜との差別化をはかっている。 しかし、それだけでは新たなコストをかけてまで炭素膜に変えるという判断をしてもらうことは難しい。炭素膜の強みをより活かすためにはどうしたからよいのか、必要とされる場所は、最適なプロセスは、など検討課題はまだまだ残されている。吉宗は、膜のユーザーからのニーズを受け、その内容をもとに膜のメーカー企業へ製造方法を提案する「橋渡し」の役割を行いつつ、炭素膜普及を目指していく。 製造業に代表されるように、近年ものづくりの現場では「少量多品種」の流れが強くなっている。さまざまな種類のモノが作られるということは、除去したい物質の種類も増えてくるかもしれない。この先、水素以外にも炭素膜が効果を発揮するフィールドが増えてくるはずだ。 「多くの企業と協力しながら炭素膜の実用化を進めていきたいと考えています。皆さまからのご連絡をお待ちしています」 炭素膜が次世代の分離技術として普及するには、膜のユーザー企業やエンジニアリング会社との連携が不可欠だ。優れたガス分離性能で省エネ、低コスト!「試してみたい」と思われた方は、ぜひ一度お気軽にご連絡を。産総研 材料・化学領域化学プロセス研究部門〒305-8565 茨城県つくば市東1-1-1 つくば中央第5cpt-info-ml@aist.go.jphttps://unit.aist.go.jp/cpt/index.html 耐薬品性と分離性能に優れたオンリーワンのガス分離膜 水素を分子内に貯蔵して高密度で水素を運ぶための有機化合物で、代表的なものとしてメチルシクロヘキサンなどがある。*-有機ハイドライド022-237-5208技術を社会へつなげるコミュニケーション・マガジン15

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