産総研LINK No.26
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水素ステーションの低コスト化に不可欠   水素社会が訪れる近い将来には、燃料電池自動車に水素を供給する水素ステーションの整備・運営を低コストで行えなくてはならない。 今年3月に資源エネルギー庁から発表された新しい「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、水素社会の実現に向けた具体的な目標や進めていくべき取り組みが示されているが、この中でも水素ステーションの整備・運営費の低コスト化ということが明記されている。 燃料電池自動車に低コストで大量の水素を供給するには、どこかでつくった水素をそのまま水素ステーションに運ぶのではなく、水素キャリアと呼ばれる別の物質に結合させて運搬し、水素ステーションの中でその結合を解離して水素を精製する方がよい。それを実現するシステムとして有機ハイドライド型の水素ステーションが構想された。水素キャリアとして有機ハイドライドが選ばれた理由は、常温常圧で液体なので扱いやすいことに加え、体積あたりの水素密度が高いこと、既存の石油流通インフラを活用できるからだ。つまり有機ハイドライドは、水素を大量に貯蔵したり輸送したりするのに向いた物質だということだ。 そして、水素ステーションで有機ハイドライドから燃料電池自動車用の高純度の水素を精製するには、高性能な水素ガス分離膜が不可欠だ。吉宗のターゲットは「有機ハイドライド型水素ステーションで使う高性能な分離膜」と、さらに具体的になった。 これは「とにかく実用的な炭素膜をつくる」という吉宗のこだわりにも合致していた。というのは、いくら新しく高性能な膜をつくっても、すぐに実用化できるわけではないからだ。分離技術自体は、蒸留法や吸着法など、すでに実用化されている方法がいくつもある。それらと比べて、性能だけではなくコストや運用しやすさなどでもメリットが出せなければ、先行技術にとって代わることはできない。さらに、そもそも化学プラントなどでは数十年使うことを想定してシステムを組んでおり、よい技術ができたからといってすぐにシステムを入れ替えるなど不可能で、採用されることは非常に難しい。 「だからこそ、実用化を目指すのであれば、そのための新たな用途を見つける必要があるわけです。“有機ハイドライド型水素ステーション”は、今は存在していませんが、本格的な水素社会になったときには必要な設備です。そこで使う分離膜として技術が確立すれば、用途拡大にもつなげられる可能性が高いと考えました」水素の超高純度精製を実現他のガス分離にも応用が可能      このプロジェクトを進めるにあたり、ユーザー企業側から要求されたのは、①トルエンに耐性を有し、燃料電池自動車用の水素規格に適合する超高純度(トルエン濃度0.28 ppm以下)を達成すること。②吸着法よりも高い水素回収率(90 %以上)を実現すること。③省エネ性が高いこと。④最終的に必要な設備がコンパクトであること、という4点だった。 「水素ステーションが街中のガソリンスタンドなどに設置される設備であることを考えると、設備の大きさも重要なポイントとなります。予備試験の結果、トルエン耐性、省エネ性やコンパクトさ、効率を満足できる可能性を持つ中空糸炭素膜が候補の一つとなりました」 こうして、燃料電池自動車用の規格を満たす超高純度な水素を精製できる、新しい炭素膜の開発がスタートした。 水素分離用の膜というのは、膜に水素分子だけが通れる均質な細孔が開いていて、その穴より大きな分子を通さない「分子ふるい」の効果を利用して、水素と水素以外の物質に分離するもの NEW TECHNOLOGY ■ 炭素膜を用いた水素分離のしくみ水素/トルエン混合ガスシンプル・コンパクト・省エネ分離が可能に水素(0.3 nm)トルエン(0.6 nm)分子の小さい水素が選択的に透過中空糸型分子ふるい炭素膜超高純度水素14 2019-09産総研

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