産総研LINK No.26
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し、多様な分離プロセスのそれぞれに最適な新しいイオン液体の開発を進めてきました」 新しいイオン液体は、アミン水溶液の代替としても利用でき、100 ℃以下の温和な条件でCO₂の大部分を回収できる。エネルギーコストは従来の7割程度に抑えることができると期待される。 「CO₂回収量も従来の2倍以上になり、回収時のエネルギーも減らすことができました。このイオン液体を用いることで、プロセス全体のエネルギーコストを大幅に削減できると考えられます」 現在までに産総研オリジナルのイオン液体は100種以上にのぼり、そのうちの一部はすでにサンプル提供を行っている。それぞれのガスの吸収に最適なイオン液体を設計する過程で、ガス分離以外の用途に利用できる新しいイオン液体の知見についても得ることができた。人にも環境にもやさしいグリーン溶媒を有機溶媒の代替に    さまざまな化学プロセスに使われる有機溶媒は有用ではあるが、その反面、毒性が高く、吸い込むと、めまいや頭痛、意識障害などを起こす危険性に加え、揮発したガスが引火しやすいというリスクもある。 「そのため世界各国で、有機溶媒に代わる溶媒の開発や、それを用いた新しい化学プロセス構築への取り組みが進められてきました。産総研でも、二酸化炭素や水などの超臨界流体をはじめとして、毒性が低く、環境負荷も低い“グリーン溶媒”を用いた省エネルギーの化学プロセスの提案を行ってきました。ここで期待されている新しいグリーン溶媒が、イオン液体です」 イオン液体がグリーン溶媒として適しているのは、蒸気圧がほぼなく、揮発性が非常に低いためだと金久保は言う。つまり、人体や環境へのリスクが低い上、常温で気体にならないので燃えにくいのだ。さらに、幅広い温度範囲で液体状態を保つことができ、耐熱性や化学的安定性に優れていて、電気伝導率も高いという特徴もある。 「いろいろな分子構造のものを作れるのも魅力です。イオン液体は分子構造によって特性が異なるため、さまざまな用途に応じて最適化できると考えられました。イオン液体を機能をもった溶媒としてデザインし、健康にも環境にもやさしい新しい化学プロセスを構築したいと思ったのです」 2000年前後から世界中で新しいイオン液体の研究開発が行われてきたが、金久保もまた、そのポテンシャルの高さに注目した一人だったのだ。金久保らはイオン種の組み合せや分子修飾などによって、疎水性や親水性、粘度や電気伝導率など、さまざまな特性や機能を変化させたイオン液体の開発に取り組んだ。 世界では100種以上のイオン液体が販売されており、それらは電池の電解液や機能性材料の素材として用いられるだけでなく、分離・圧縮プロセスや化学反応・材料合成プロセスなどの溶媒としても利用が検討されている。また、難溶性の物質を溶かし、真空下でも蒸発しないため、計測・分析の溶媒としても活用されている。 イオン液体は熱的にも化学的にも安定しているため、単一の溶媒として広い温度範囲で使え、高温でも溶媒が変質しにくいというメリットがある。 さまざまな物質を溶かせることもポイントだ。これまで溶けづらくて苦労してきたセルロースのような難溶性物質でも、イオン液体であれば溶かすことができる。さらに、温度変化などを利用して溶け込んだガスの分離回収も可能であり、繰り返し使うこともできる。 このように、さまざまな環境下で能力を発揮できる可能性をもつイオン液体には、研究側からではみえないニーズがまだまだ眠っていると金久保は感じている。そして、いつか持ち込まれるかもしれないニーズに応えるため、これまでのイオン液体開発で培ってきたノウハウが活かせればと考えている。 NEW TECHNOLOGY 分離・圧縮プロセス・ガス分離・貯蔵・液液抽出・ヒートポンプ など電気化学アプリケーション・二次電池 ・太陽電池・熱電発電 など機能性材料・アクチュエーター・潤滑剤・帯電防止材 などバイオプロセス・バイオリファイナリー・ドラッグデリバリー など化学反応・材料合成プロセス・気相触媒反応・脱水縮合反応 など分析アプリケーション・クロマトグラフィー・SEM などイオン液体の特徴◦幅広い温度 範囲で液体◦優れた耐熱性、 化学的安定性◦多様な化学種を 溶解可能◦気相に溶出しない◦不揮発性、 難燃性◦広い電位窓、 高いイオン伝導◦再利用が容易◦低い比熱■ イオン液体の特徴と応用例10 2019-09産総研

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