産総研LINK No.18
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 手のひらサイズの金属製のボックスからケーブルが伸び、その一部は芯線がむき出しになっている。驚くほどシンプルな外見だが、実はこれが農産物の水分量計測のあり方を一変させ、アグリビジネス界にインパクトを与える可能性を秘めた画期的な装置なのである。 物理計測標準研究部門 電磁気計測研究グループでは、これまでスマートフォンの回路素子のパラメータ評価技術をはじめ、主にエレクトロニクスと通信分野の部品性能や品質評価技術を開発してきた。それが農産物と結びついたのは、どうしてなのだろうか。 研究グループ長の堀部雅弘は、発案当初を振り返る。 「数年前、研究室に見学に来た計測器メーカーの方から、米国にはトウモロコシや大豆などの穀物の水分量を計測する技術のニーズがあると聞きました。同じ頃、農研機構からも似た話が寄せられ、農産物に材料計測の技術を応用できるのではないかと考え始めたのです」 早速、農研機構から水分含有量を調整した数パターンの米粒を提供してもらい、米の水分量計測技術の開発をスタートさせた。 もちろん、それまでも水分量計測技術は存在していた。しかし、それらはサンプルを抜き出した上で粒を破壊したり、加熱して水分を飛ばしたりと、米の変質を伴うもので、時間もかかるものだった。もっと簡単に、破壊も変質もさせずに水分量の計測ができる方法はないものか、堀部はそう考えたのだ。 電磁波を農産物に当てて信号の変化を見れば、内部の水分量を測定できると堀部は考えたが、米はそれまで扱ってきたエレクトロニクス材料とはあまりにも違っていた。人工物であるエレクトロニクス材料は、計測時に重要な情報となる形状や密度などを製造段階で人間が調整できる。 「ところが米は人間が調整できるものではありません。粒の大きさも1つ1つ違いますし、計測の際にコップに詰めても納まり方を均一にはできず、米と空気の割合も毎回異なります。そのようなものをどうやって測ればよいのか、非常に悩みました。少なくとも、エレクトロニクス材料と同じ感覚でやっていてはダメだということは明らかでした」(堀部) つまり、その時はまだ、エレクトロニクス材料計測の感覚から離れられておらず、測定にあたっては均一に米を詰めてあること、すなわち定量性が前提とされていたのだ。しかし、現実には米を均等に詰めることは不可能なので、計測しても結果にバラつきが出てしまい、実用に耐えるレベルには到達しなかった。解析方法も従来のエレクトロニクス材料と同じ方法論が使えないことから、研究は行き詰ってしまったという。 そんな時、1980年代に行われていた電磁波を使った水分量これまで培ってきた電磁波計測技術を応用して、農産物の水分量を非破壊で、簡単、迅速に計測できる技術を開発。KEY POINTNEW TECHNOLOGYエレクトロニクスの評価技術を農産物の水分量計測に使ってみよう農産物の水分量を、切らず、つぶさずわずか1秒で簡単に計測多様な分野に応用できる電磁波センシング技術NEWTECHNOLOGY工業製品の方法論は農産物には通用しない体積を無視できる解析方法がブレークスルーを生んだ08 LINK 2018-04

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