産総研LINK No.18
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が増加することが明らかになっています。 また、先ほど話に出たアレルゲン除去卵ですが、これはニワトリの遺伝子をゲノム編集して、ある1つのアレルゲンの遺伝子を欠損させた卵を産ませるという研究です。このようにゲノム編集技術は新しい農産物をつくる方法の一つであり、さまざまな方面の農業革新に結びつくと期待しています。 ただ、こういった研究が産業に結びつくまでには長い道のりがあります。ニワトリの例では、まずは1種類のアレルゲン遺伝子をもたないニワトリを確立させ、次にそのニワトリが産む卵がそのアレルゲンをもたないことを確認する。さらに、そのニワトリや卵が本当に人間にとって安全なのかを検証する。そして、企業に使っていただく段階では、除去したアレルゲン以外のアレルゲンをどうするかなどの問題も踏まえて製品の材料にしていただく。そこで初めて産業化に結びつくわけです。新しい農産物は産業化するまでに非常に多くのクリアしなければいけないステップがあります。その長い道のりの中で、多様な仕事に関して産総研と連携していけたらと考えています。中鉢 農研機構の扱う第一次産業は非常に歴史が長く、野生動物を捕らえるところから考えると、縄文時代に端を発するとも言えるでしょう。植物からデンプンや糖をつくるメカニズムも今日まで生き続けています。一方、農作業の労力は、その時代の技術を取り入れて変化し、かつては人力か家畜で行っていた作業を、近代以降はトラクターなどの機械を用いるようになりました。そして現在では、IoTやAI、ロボット技術、広い意味での情報技術や遺伝子組み換え技術など、産総研の有する技術との多様な組み合わせが可能となっています。まさに今は、連携するのによいフェーズだと言えるでしょう。 農研機構の長い歴史をもつ技術と、私たちの近代以降の技術が組み合わさることで、何かが起こるという期待感が私にはあります。それがうまく実現できれば、社会を大きく変えていける可能性もあるように思います。 ただ、先ほど井邊理事長もおっしゃったように、新しい技術の成果を使っていくときに、それが人間にどのように役立つかは吟味が必要であり、その検証も併せて進めていく必要があるでしょう。アレルゲン除去卵については創薬への適用の可能性が考えられており、それはすでに現実の取り組みになり始めています。新しい成果が出ると、そこを中心にさまざまな新しい産業が出てくるわけですね。私たち国立研究機関への社会の期待は、新しい技術をいかに新しい産業につなげるかという点にあると思いますので、出てきた成果を大きく育てるところまで確実に取り組んでいく必要があると考えています。—松岡 お互いのもつ知見を生かし連携を進めることは、社会の要請に応えていくことにもなりますね。それではより具体的に両機関が連携できる分野はどのようなものがあるでしょうか。井邊 私たちは次の3つの連携分野があると思っています。1つ目は何度も話に出ているロボットやAIです。この分野に関しては、すでに農業現場でGPSガイダンスつき農業機械や自動操舵の農業機械が販売されています。GPSガイダンスつき農業機械の方は2008年から2016年の間に8600台が販売され、購入地域は8割程度が北海道です。また、自動操舵の農業機械は販売数約3000台のうち、9割が北海道です。この分野では北海道の生産現場で連携を進めていけるでしょう。 2つ目はバイオです。この分野はゲノム編集等さまざまな可能性を秘めていますが、反省点もあります。遺伝子組み換え技術は世界的には農業イノベーションとして大きな位置を占めており、すでに世界で4億ヘクタール規模の生産が行われています。しかし残念ながら、日本では遺伝子組み換えに関する社会的コンセンサスが形成されておらず、作物は生産できていません。ゲノム編集はこれを踏まえ、社会的理解を積極的に求めながら進めることが前提になると思います。 そして3つ目はスマートフードチェーン、すなわち食品の生産から商品として販売されるまでのプロセス全般のシステム化です。育種から始まり、栽培、収穫、加工、それから私たちのお腹の中に入る健康のところまで一気通貫でシステム化するイメージです。この中で、流通プロセスにおいて生じる温度ギャップが衛生管理の面から非常に問題になっており、このあたりの課題解決を産総研と一緒にやっていきたいと考えています。中鉢 私も農研機構と産総研が連携することで、今はまだ私たちも気づいていないような可能性が出てくると考えています。北海道はフード・コンプレックス国際戦略総合特区に指定されているので、それを追い風にスマートフードチェーンについても進めていきたいですし、科学的なエビデンスを伴う機能性食品なども開発できればよいと思います。—松岡 社会的課題の解決のために、特に2015年に採択された国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて取りSpecial interview持続可能な社会の構築のために農工連携が期待される3分野06 LINK 2018-04

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