産総研LINK No.18
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の前の空間は開放されており、試料はそのコイルの前に置くことになる。試料のサイズに制限はないが、測定できる磁場は弱く不均一になりやすく、得られるシグナルも弱くなることが懸念された。そのため中島はまず、片側を開放してもシグナルがとれるかを調べることにした。 「最初に用いたのは直径10cm、重さ2kg程度の永久磁石です。シグナルはとれましたが、とても微弱で、しかも表面から数mmのところをとるのがやっとだったのです。片側開放型NMR装置の宿命として外部ノイズに対しても「開放」的なため、ノイズも非常に大きく、得られる数値には大きなバラつきがありました。この点はノイズシールドを設けたことにより解決しましたが、いずれにしても、もっと深部まで測るために、より大きなシグナルを得られる大型磁石を用いることにしました」 大きな磁石をと考え始めたその頃、中島は、大きな物体内部の非破壊計測の需要は、土木以外にももっとあるはずだと考えるようになっていた。試料の切り取りが許されない大きな物体中の水と油の含有量を測る必要のあるものには何があるだろうか?そこで思いついたのが農水産物、すなわち牛やマグロというわけだ。 「牛肉の霜降り状態を測ろうと着想したのはよかったのですが、そこからが大変でした。何しろ地球物理学出身の私は、牛についてなんの知識もありません。解剖学的な知識も肉の部位の名称も知りませんでした」 牛もマグロも測れる装置にできるだろうかと一から調べていくうちに、内部の脂肪量は外見からではプロでも簡単には判断できないということがわかった。牛の肉質等級はロース芯の断面を見てから決めるし、マグロも切り落とした尾の脂ののり具合から価格を決めている。それが、非破壊計測装置なら切らずに計測ができる。これは大きなメリットではないか。 さらにこの装置を使えば、飼育中に霜降り状態が計測できる。農家は牛を育てるとき、餌の質などを経験から判断しているが、子牛の頃から定期的に測定をしてそれぞれの時点の霜降り度を知ることができれば、霜降り牛として育てる効果的な方法が科学的に裏付けられることになる。 「脂肪量はおいしさ、ひいては価格にもかかわってきますから、食品分野でのニーズはあると確信しました」 トンネルのコンクリートにしても牛やマグロにしても、測るべき箇所は表面より数cm以上奥にある。そこを計測するために試行錯誤を繰り返し、2015年、直径30cmの円柱形の永久磁石の端に高周波コイルを載せ、コイルの上部が開放された形状のプロトタイプをつくりあげた。表面から3cmの深さにある1.9×1.9×1.6cmの直方体が計測範囲だ。この探査深度3cmは、生きた牛の僧帽筋やサーロインの位置をほぼカバーしている。 これを用いて、牛肉の僧帽筋、サーロイン、テンダーロイン、赤身、脂肪の塊など、計17個の牛肉ブロック試料を計測。測定時間は、1試料あたりわずか10秒ほど。脂肪組織の中の脂肪分子と牛肉やマグロの非破壊計測にニーズがあると確信 わずか10秒で高精度の計測が完了NEW TECHNOLOGY▲片側開放型NMR装置生きたままの牛にこの片側開放型NMRを当てると、体表から3cmほど奥にある肉の霜降り状態を、短時間かつ高い精度で計測できる。NS脂肪 40%筋肉 60%牛の体内高周波コイル1.6cm1.9cm3cmNS計測範囲14 LINK 2018-04

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