産総研LINK No.18
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計測の資料を調べていた堀部はあることに気が付いた。通常、電磁波を使って測定するときは、電磁波の強さと同時に速度として読み替えることのできる位相を計測するのだが、当時の実験では位相情報をとっていないことがほとんどで測定結果はバラついていた。つまり、形や密度が一定ではない米に、定量性があることを前提とした計測・解析方法が使われていたことが結果にバラつきを生じさせる原因だったのだ。そこで堀部は、解析方法は定量性がないことを前提にする必要があると考えた。 「私たちは位相情報も使った解析方法に変えることで、形や密度が一定でない米を計測できる可能性があるのではないかと考えました」 堀部は、試料を電磁波が通過したときの信号の強さの変化を理論的に示した数式、そして、位相の変化に関する数式を上下に並べ、これらと向き合い続けた。そして1ヵ月後、ある規則性に気づいた。どちらの数式も分数のかたちをしているが、いずれの式にも分母に試料の体積が入っている。このときの体積とは、米と空気の混ざったトータルとしての体積のことだ。ということは、電磁波の強さと位相を割り算すれば、この情報を消せるということではないか。この発見がブレークスルーにつながった。 「消えてしまうのなら、コップ内の米と空気の割合がどうであっても関係がありません。理論上は、どんな詰め方であっても、あるいは、米が1粒でも1俵でも関係ないのです。この解析方法に気付いたことで、開発は一気に進みました」(堀部) 体積の情報が不要で、電磁波の強さと位相だけを測ればよいのなら、米のような粒状のものでも、カップや袋に詰めたものでも電磁波を通すだけでよい。計測は一瞬で済むので、出荷ラインに流しながらでも計測ができる。 従来のようにサンプルを抽出する必要もなければ、サンプルを壊す必要も、変質させてしまうこともない。サンプルが変質すればその農産物は出荷できなくなるが、この方法であれば出荷に支障が出ることはないので、全数検査をすることも可能になる。これは農産物の水分測定には画期的な技術と考えられた。しかも、測定に必要な装置はシンプルだ。箱状の部分から電磁波を出し、先端まで届いて戻ってきた電磁波を受信する。ケーブルの芯線のむき出しの部分の上を米などが通ると、それによって電磁波の強さや位相が変化するが、水分含有量が多いものは乾燥したものより位相が遅れるので、発信時と戻ってきたときの電磁波の強さや位相の差がより大きくなる。その変化量の比を見ることで水分量が計測できるというわけだ。 「乾燥した米と水分を含んだ米を計測すると、水分量の違いが線の傾きで表れてきます。この傾きの角度から、計測した対象の水分量がわかるのです」(堀部) 長い間待ち望まれていた「農産物の簡単・迅速な水分量計測」を実現したこの技術のインパクトは大きかった。電磁波は紙、布、ビニールを透過するので、フィルムや紙袋などで包装してあっても検査ができる。出荷前の完成品をそのまま測れるということのメリットは大きく、2016年にこの技術を発表して以来、企業からの問い合わせが数多く来ているという。すでに5〜6社と共同研究開発がスタートしている。 研究対象は、農産物だけとは限らない。例えば、コンクリート製造に使う砂の水分量測定。砂の水分量はコンクリートの強度にかかわるため、測定自体はこれまでも行われている。しかし、測定には一晩置く必要があるなど時間がかかるため、砂袋に入った状態で、一瞬で水分量を計測できる迅速性へのニーズは高いという。 「水分量以外の成分を測りたいという要望もいくつも寄せられています」と語るのは、水分量以外の計測法の開発を担当する、NEW TECHNOLOGY砂の水分量から農産物の糖度、酸度、ポリフェノールまで▲水分量が異なる2つの米を、置き場所を変え10回測定すると、測定値はそれぞれ傾きが異なる直線状に分布する。この傾きから水分量が測定できる。0.1100.1000.0900.0800.0700.0600.0500.0400.0302.3702.3902.4102.3802.4002.420位置の変化量(ラジアン)振幅の変化量(デシベル)10 LINK 2018-04

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