産総研LINK No.17
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 「樹脂加工の方法はもう出つくし、新しく出てくることなどもうないと思っていました。まさか、まだこんな方法が残っていたとは……」 企業の担当者がこう感嘆の声をもらしたのは、化学プロセス研究部門の相澤崇史が開発した、新しい多孔質材料の製造技術を見たときのことである。実はこの方法は論文を投稿した際にも「常識的には考えられない。思い込みなのではないか」と査読者から疑問を呈されたほど、“常識をひっくり返した”ものだった。 この技術は、不織布などの樹脂製の布を容器に重ねて入れ、二酸化炭素を注入してからプレスすると、それだけで布が圧着されて多孔体ができるというものだ。接着剤などの薬品はいっさい使わず、加熱もせず室温のままでOK。驚くほどシンプルなので、「本当に可能なのか?」と思われても無理はなかった。 相澤がこの技術を発想した前段階には、宮城県産業技術総合センターから「なんとかしてナノインプリント技術を使えるものにしたい」という要望があった。ナノインプリント技術というのは、樹脂の表面に非常に微細な形状をプレスして転写する技術のことだ。例えば、樹脂の表面にナノスケールの微細な形状加工を行えば、反射防止やくもり止め、あるいは撥水や親水の機能をもたせることができる。メガネのレンズの反射防止にはコーティング剤が用いられてきたが、表面のコーティングは使っているうちに剥がれてきてしまう。それに対してナノインプリント技術はレンズ表面の形状自体を変えるために、半永久的にその機能を維持できるのだ。 これを情報記録用の媒体などに用いれば、細かい凹凸を刻むことができ、記録容量を大幅に増やすことができる。さらには半導体製造工程でも、光で加工する代わりにこの技術を応用できる。 そのようにさまざまな用途が期待され、2000年半ばにはナノインプリント技術がブームになった。宮城県産業技術総合センターでも熱ナノインプリント装置を導入したのだが、期待に反し、利用は一部企業にとどまった。それはなぜだろうか。 「加工に時間がかかり過ぎたのです。熱で樹脂を溶かして型押しし、冷めて固まったら型からはがすというのが一連の工程ですが、加熱・冷却に時間を要するため、厚めの樹脂では1つ加工するのに20分もかかりました。これでは大量に受注があっても対応できず、実用的ではありません。そのため広く普及するまでには至りませんでした」 実際、この技術は、反射防止フィルムと光ディスクで実用化されたものの広がりに欠けた。宮城県産業技術総合センターは、厚めの樹脂に適用可能なナノインプリント法を開発できないかと模索した。しかし、自分たちだけで取り組むのは難しいと考え、そこで思い出したという。 「そうだ、産総研に相澤さんがいる!」 相澤は超臨界での物性研究を専門とする研究者だ。超臨界水の混合部を世界で初めて観察したり、シンナーを塗料に混ぜる代わりに二酸化炭素を用いる塗装システムをつくったりと、基礎熱も薬品も使わずに、シンプルな装置で簡単に、しかもわずか数秒でできてしまう、二酸化炭素を使った新たな接着の技術は、応用範囲の広さが期待できる。KEY POINT新発想の加工法はナノインプリント技術から始まった繊維を織らずに絡み合わせてつくる不織布。この不織布を重ねたところに二酸化炭素を注入し、ピストンで押す。それだけで布同士が接着して細かい穴の開いた構造の多孔質材料ができるという、驚くほどシンプルな材料製造技術が完成した。シンプルで低コスト、加工時間もかからないこの画期的な技術は、フィルターや触媒担持体、ギプスなどさまざまな分野での幅広い応用が期待できる。現在、実用化に向けて広く連携先を求めている。新発想の接着技術▲任意の枚数の不織布を重ねて、二酸化炭素を入れてプレスするだけで接着ができる。室温で使える転写技術ができた!処理前処理後09 2018-03 LINK

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